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第十一夜 Entry to Republika e Shqipërise @Tirana [Albania]

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―DAY11― 8月15日

宿の窓からの景色は格別で、雲が多い朝の空さえも清々しく思えた。

やはり「世界遺産に泊まる」というのはちょっと別格の気分、
たとえそれが1,000円ちょっとのドミトリーであっても、だ。

8:30、手際よくチェックアウトを済ませ、歩いてバス・ターミナルへ向かう。
ひと気がなく、乾いた風が吹き抜ける朝の城内も気分がいい。
そこには普段の生活を営む地元の人しかおらず、世界遺産を貸切にでもしたような気分に浸れた。
こうなるとなんでも気持ちがよくなり、なんでも素晴らしく思える、
旅先の気分なんてそんなカンタンなキッカケでカンタンに移ろゆくものだ。

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時間通り9:00にやって来たバスは古いタイプのメルセデスで明らかに使い込んだ中古とわかる代物だった。

荷物をさばく年配のドライバーも心なしか古びているような気がしたのは彼の服装からだろうか。
昨日買った「ウルッツィ」行きのチケット代金は9ユーロ、
どうやらこのバスはアルバニアの会社の運営のようで、
トランクに入れるバゲージの代金を別に取られることはなかった。

3時間走り続け、12:10、『Ulcinj(ウルツィニ)』のバス・ターミナルに到着。

チケット売り場で「ティラナ行き」を尋ねると「次のバス、10分後よ」と窓口の女性がいう。
同じバスから降りたブラジル人女性、イタリア人の2人組と「次のバス、10分後だってさ」と言い合い、
ともに慌ててトイレに駆け込み、チケットを手に指示された乗り場に向かった。

そこに待っていたバスも同じように古いタイプのバスで、
クロアチアやモンテネグロを走っていたWi-Fi付きが謳い文句の最新型とは一世代も二世代も違うものだ。

ドライバーにチケットを見せたものの、「席がないよ」と無責任に両手を広げてみせてくる。
時間がないこともあって、こちらは4人で「このバスのチケットはある」とケンカ腰で迫った。

4人がそれぞれ勝手にトランクに荷物を押し込み、悶着を続ける。
車内に乗り込み、見渡すと本当に席はすべて埋まっていて、自分たちが座るイスは一つもなかった。

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「シートないってなんだよ? こうしてチケットはあるのに!」

4人揃って強い口調でドライバーに文句を告げる。

「待て、待て。なんとかするから」

ドライバーのおっちゃんはカタコトの英語でそういうと、どこかに姿をくらました。

「おいおい、席ないのにチケット売るなよ」
「これ、次のバスに回されるのかね?」
「次のバスは16:30とか言ってたぜ」

4人はいったんバスを降り、ドアの前でブツブツ語り合いながらおっちゃんが戻るのを待った。
するとおっちゃんはすぐに戻ってきたのだが、小さなプラスティック製のイスを4つ手にしていた。

「ここ、ここ」

カタコトの英語でそういうとイスを通路に置き、そこに座れ、という身振りで4人を促した。
そのイスを見て、通常席に座っている乗客は大爆笑、
旅行者で占められていた車内はだんまり決め込み、事の顛末を見守っていたのだが、
ドライバーのあまりにも常識はずれな対応にバカウケしていた。

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まるで4人は自分たちが笑われているかのような気分に陥っていた。
乗客はみな各地からここで乗り継いでいるのであろうから、
ちょっとした到着時間の前後でこの状況になるか、ならないかの違いでしかないのだ。

「おい、これかよ!」

プラスティック製のイスといっても風呂場で使うような腰かけるだけの小さなアレ、背もたれすらないヤツだ。
文句を口に出してみたが、こちらの4人ができることといえば、イスを蹴り上げて次のバスを待つか、
あきらめてイスに腰を下ろすか、の二択しかない。
飲み込んで車内に進むことに躊躇したが、おっちゃんはエンジンをかけはじめた。

もはや考えたり、文句を言っている時間すらない。

あきらめて4人それぞれが通路に置かれたイスに腰を下ろした、先に進むことを選択したわけだ。
車内は爆笑から拍手に変わり、それに合わせるようにバスは走り出した。

通路に腰かけた自分たちを労わるかのように周りの席の旅行者がアレコレ話しかけてくれていた。
動き出しと同時に各所で「ハイ・ファイブ」を求められ、(ハイタッチってのは日本語英語ですよん)
「どの街から来たの?」とか「ナニ人?」とか、しばらくは退屈しないあたたかい雰囲気が続いた。

通路の一番後ろに座ることになったのだが、左側は使うことができないトイレがあり、
そのドアに寄りかかることができたのが幸いだった、なにせ背もたれがないのだから。
右側は非常口でステップがあり、荷物も置けて足も伸ばせたので窮屈な感じがなく、座ることができた。
その後ろの最後部のシートを陣取っていたのは3人組のドイツ人で、
気のいい彼らは知っている日本語で話しかけてきたり、バカでかいチョコレートをくれたり、
互いにバカバナシをしながら過ごすことができ、このありえない状態を乗り切る助けになっていた。

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13:15、おしゃべりが尽きる前にバスは国境に到着した。

バカンス・シーズンのためか、小さな検問所は混んでいた。
ドライバーが乗客のパスポートをまとめて集めていくだけだったので、こちらは車内で待つだけだったが、
このオールド・バスは「走らないとエアコンが効かない」というハンデを抱えていた。

車内では「イス」がもたらした奇妙なトピックのせいで話が尽きず、あちらこちらが楽しく盛り上がっていたが、
通風口からは生暖かい空気しか出てこず、窓が開かない車内には徐々に熱が増し、空気が澱みはじめていた。

30分ほど経った頃だろうか、フランス女性がしびれを切らし、
こちらの目の前にやって来ると後部の非常口のドアを勝手に開け放った。

それと同時に車内には新鮮な空気が流れ込み、みなが喝采を上げた。
なにしろ昼のこの時間、エアコンなしの車内は質の悪いサウナでおしゃべりしているような状況だ。
前方席の客たちは前のドアを勝手に開け、外で涼む人もいたが、
後方席では前にも出られず、顔から汗を垂らすガマン大会と化していたのだ。

非常口を開けたフランス女性は今度はドアにぶら下がり、外の風を感じている。

50分が過ぎた14時過ぎ、ようやくパスポートが配り戻され、バスは動き出しの準備をはじめる。
そうなると車内はエアコンの風が戻るであろう期待感に包まれた。

4ヶ国目の突入の感激も感慨も薄いまま、ようやくこの暑さから解放されるかと思っていると、
非常口が開いていることに気づいたドライバーのおっちゃんが、
かなりの剣幕でまくし立てながら、バスを降り、非常口のある右後方に回っていく。

「誰が開けたんだ! 非常口だぞ!」

「わたしよ。あんな状況、耐えられないわ!」

初めは威勢よく怒っていたおっちゃんだったが、まくし立てるフランス女性の強い英語に尻尾を巻き、
非常口を閉めることだけに専念し、おとなしく運転席に戻った、う~ん、ヨーロッパ女性は強いね。

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「ねえねえ、そのイス、座らせてよ」

エアコンの風が戻り出した頃にドイツ組の一人が奇妙な願いを申し出てきた。

「ここに? いいけど、ラクじゃないよ」

「いいのいいの、変わって変わって。こういうのオモシロイからさ。後ろのシートでゆっくりしなよ」

そういうと風呂イスに腰かけ、友達におどけた写真を撮ってもらいながら、座り心地などを確かめている。
オモシロ半分かもしれないが、あるいはこちらを見かねて、席を変わってくれたのかもしれない、
なんて思いも頭をよぎったが、彼の素振りを見ているとどうやら前者の一択かな。

確かに途上国の旅先とはいえ、国境越えの国際バスでプラスティック製のイスは度を越えている。
それでもアクシデントをおもしろがれるのか、始終文句をいい続けるのか、で旅の質はかなり変わってくる。
この時間のバスに乗れたことが風呂イスの苦痛を上回っていることに、自分では早くから気づいてはいた。

風呂イスを楽しむ彼の姿からすると
「アンタ、実は最初から座りたかったのね」と言いたくなったが口はつぐんでおいた。
このドイツ3人組とはこれを機会にすっかり仲良くなり、少しの間、旅を共有することになっていく。

エアコンで快適さを取り戻した車内はおしゃべりの元気も取り戻したが、バスは1時間もかからずに停車した。

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14:50、どうやらミニバスに乗り換える場所に着いたようで、バスを待っていたオヤジさんたちに促され、
ここがどこかもわからないまま、それぞれが荷物を移し替え、着席するとミニバンは次から次に発車していく。
言葉を交わすこともなく、流れ作業で運ばれて行く荷物になったような状態だ。
ミニバンの窓越しにカンバンを確かめるとどうやら『Skadarsko(シュコダル)』の街のようだった。

今度はミニバンで同席したカップルと話しをすると、オージーの彼らはなんと1年間の旅をしているらしい。

「1年? キミらからすると1ヶ月なんか短くて笑っちゃうね」

「でも日本人は長い休暇を取る習慣がないよね? それなのに1ヶ月は充分長いでしょう」

「いや、そんなことよりもカップルで1年はうらやましいです、ホントに」

アジアからはじめた彼らの旅はまだ半分、これから東を回り、そのあと西ヨーロッパが待ち受けているらしい。
こちらは一ヶ月の短い旅だが、宿で乗り物で様々な国籍、人種、目的の人たちと会話し、擦れ違っていく。
カラダの中の細胞のひとつひとつが少しずつ変化している気分になっているのは大げさだろうか。

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エアコンが効いて、背もたれもある快適な車内で他愛のない話しをしていると、
16:50、ミニバンはアルバニアの首都・ティラナに到着したらしい。

「らしい」というのはバス・ターミナルでもない街外れのロータリーに放り出された形なので、
右も左も西も東もここがドコかもわからない状況なのだ。
なにせこちらは市内の地図も現地の通貨もなにも持ち合わせていないのだ。

8時間のバス旅が終わり、激しくクルマが行き交う通りで少しばかり途方にくれた。


コトールからウルツィニ、シュコダルを経て、ティラナへ
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