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pleasant paradise @Manila [Philippines]

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ラウンジで14:10のシンガポール行きSQフライトを待っていた。

マニラ空港の正式名は『ニノイ・アキノ国際空港』、
ここでも『プライオリティ・パス』を有効利用して、
ビジネスクラスのラウンジ『PAGSTOP LOUNGE』にいた。

ラウンジに転がり込んだのはほんの一時間前。
スコールでタクシーがつかまらない上、空港までの道のりもしっかり渋滞していたからだ。

パラオ行きにあたって、消費マイルが変わらないからと、
帰国便のフライトをパラオ~マニラ~シンガというバカげた行程で組んだのは、
『未踏の地・フィリピン』という誘惑に駆られたためなのだが、
キツイ乗り継ぎも『プライオリティ・パス』でビジネスクラス・ラウンジの利用ができる、
というアドバンテージがあり、多少は慰めになると思ったからだ。

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「すぐにチェックアウトするから」

フロントにそう告げ、部屋に上がった。
チェックアウトの12時まではまだ30分ほどある。

ショッピング・モールからの帰り道もスコールは精力的で、
「強」になったスイッチのまま、大きな交差点をことごとく水溜りにしていた。

覚悟を決め、その交差点に足を沈め、ズブ濡れになりながら、ホテルを目指したが、
そもそも地元の人は激しいスコール自体を気にも留めていないようで、
民家の軒先では壊れた雨どいから漏れ落ちる水で頭を洗ったり、
洗濯物を濯いでいる人さえいたりした。

あるいはこれがマニラの日常なのかもしれない。

部屋で熱いシャワーを浴び、濡れた服をバスタブで軽く洗濯すると乾いた清潔な服に着替えた。
時間があったのでドライヤーで靴を乾かし、片手間にコーヒーを淹れる。
初めて訪れた国でなにをやってるんだろう、と思いはしたが、
センチメンタルな感傷にふけるほど部屋を使える時間は残されてなかった。

ランドリー・バッグに濡れた衣服を放り込み、
キャスター・バッグに詰め込むと異様に重さが増した。
半乾きに遠く及ばない革のデッキ・シューズを履くと気持ち悪さが素足を伝ってきた。




「ごめんね、ギリギリまで部屋を使っちゃって」

ギリギリとはいったものの、時計はチェックアウト・タイムの12時を30分ほど回っていた。

「問題ないわよ、これぐらいなら。うちのホテルの滞在はいかがでした?」

レシプトを打ち出しながら、女性マネージャーがキレイな英語でいう。

「とても快適でしたよ。値段以上だと思います。
 シッカリした朝食は一人旅やビジネス客にはうれしいです。
 Webの口コミにもそのことはちゃんと書いておきますよ」

「あら、それはうれしいわ。日本からのお客さんが増えるかも」

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気持ち悪いデッキ・シューズとやけに重たいキャスター・バッグを引きずり、
ホテル・エントランスの階段を下りる。

「空港までタクシーですか?」

ドア前にいた年配のガードマンが声をかけてくれる。
どうやらこのホテルにもガードマンはいたようだ、たった今、初めて見かけたが。

「うん、空港までです」

行き交うクルマを停めようと通りに出るとガードマンが傘を差し出してくれた。

「ありがとう。でもご覧の通り、一度ズブ濡れになって、
 シャワーを浴びてきたので雨は気にならないですよ。
 それよりもクルマ、拾えますかねえ?」

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目の前の通りを走るタクシーはホトンドが客を乗せている。
東南アジアでは雨が降るとタクシーはつかまらなくなる。
たまに空車の赤いサインを出しているクルマはこんな感じだ。

「空港までメーターで行ける?」

「300ペソ、チップ込みでいいよ」

スコールなので、足元を見て、ドライバーは強気だ。
メーターでなく言い値で行く、というタクシーが多い。
小雨になってきていて降り止みそうな気配だったが、
500はアタリマエで酷いのは800なんて言ってくる運転手もいた。

ドアを開けては「エアポート、メーター」と継げ、
ツレない返事をもらっては失望とともにドアを閉める、というのを4~5台、繰り返した。

「時間だいじょうぶかい?
 マニラのタクシーは性質が悪くてすまないね」

変わらず横で傘を差してくれているガードマンが申し訳なさそうにいう。

「ダイジョウブ、こういうのは旅先では慣れっこです。
 スコールだし、こんなことでフィリピンを恨みはしませんよ。
 それよりも手持ちのペソが300しかないんで、
 メーターで行ってくれるタクシーを待つしかないんですよ」

「ならATMでお金を下ろしたほうが早いかもしれませんよ」

カードマンの言っているいることが正論なのはわかっていた。

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目の前で停まったタクシーに「メーター」と告げると、
ドライバーは乗車を促すように無愛想に首を傾けた。

「アンタ、ラッキーだったね」

「これでマニラをキライにならないで済みますよ、ありがとう」

傘をたたむガードマンに礼をいい、ドアを閉めた。



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