第十六夜 Old Market @Skopje [Macedonia]

―DAY16― 8月20日
スコピエの朝は肌寒く、羽織ものが欲しくなるぐらいだ、昼は40度を超えるというのに。
キッチンで見様見真似のやり方でマケドニア式のコーヒーを淹れ、
そいつで温まりながらスーパーで買ったパンを齧った。
すると同じ部屋からアジア系の男の子が疲れた顔で現れた。
「チュッタ?(寒い?)
アンニョン・ハセヨ、イルボン・サラン・イムニダ。(おはよう、日本人です)」
ヘタクソな韓国語でそう話しかけると薄着で寒そうにしていた彼は驚いた表情をした。
マケドニアの首都のドミトリーで母国語で話しかけられるとは予想してなかったのだろう。
「なんで韓国語? にほんじんデショ?」
「アイサツだけですよ。あとは英語でいいかな?」
昨夜、ベッドにハングルの本が置いてあったのを見かけ、唐突に挑んでみた。
それにバルカン半島で出会った一人旅のアジア系といえば、
日本人はティラナでの一人のみで残りはすべて韓国人だった。
こちらが「毎月ソウル」と称し、足繁くソウルに通っていることを話し、韓国語もその経験で覚えたことを説明した。

「ここ、朝食あるんですか?」
「いや、これは自分で買ったやつ。よかったら食べる?」
そういって大袋に入ったデニッシュを彼に差し出した。
「いいんですか? アリガトゴザマス」
「ハンといいます」といってパンに齧りついた彼は上海から陸路でキルギスに入り、ここに至ったそうで半年間の旅らしい。
すでに大学卒業は決まっているのだが、就職せずに旅を続けたいらしく、
「USAをドライブ」で横断したあとに「南米も巡りたい」と考えているそうだ、若者の夢は大きい。
4週間で長い旅路、などというと笑われるような出会いばかりが続く。
午後のバスで次の国コソヴォの首都プリシュティナへ向かうつもりだったので、出かけることにした。
まずその前に昨日、チェックインの際、バタついて払いそびれていた宿代370デナリを支払った。
オフリッドと併せて泊まると安くなる、というハナシだったが、いくら安くなるのかは聞くのは野暮だろう。
ただ他の宿泊客が払う金額より少なかったのは確かで昼飯代が浮いた、と勝手に思っておくことにした。
続いてすぐ隣のバス・ターミナルに向かい、チケットをゲット、
手元にマケドニアの現金が少なかったのでカードで320デナリを支払った。
バスは何本かあるうちから15:00の便をチョイス、これなら残りの時間でスコピエをゆっくり巡ることができる。

昨夜は『Stara Čaršija(スタラ・チャルシヤ)』と呼ばれるオールド・バザール・エリア、
そこにあった飲み屋通りのBARのテラス席で日付が変わるまで話しが盛り上がった。
これから行く街の情報など旅ネタを中心にとりとめのないハナシがホトンドだったが、
違う国の違う人、違う視点の話をアレコレ聞けるのはそれだけで刺激になり、
深夜というのに脳みそはやけに冴えていった。
通りすがりの男に「警告」をもらったが、特に気を使うような場面には出くわさなかった。
彼の強い思い込みによるものかもしれなかったが、
ここバルカンでは同じ国でも民族、宗教が違うことはザラで、
たとえ同じ民族だとしても、宗教が違えばコミュニティも異なっていくという、
単一民族の国からきた身としてはなかなか理解が難しい現地情勢であることを教えてもらう形になった。
この後、さらにバルカン半島のディープなところに進んでいくとその複雑な情勢がいろいろ垣間見えてくることになる。
おまけにこのバカな旅人はその「現地情勢」の煽りを食らうことになるのだが、モチロンこの時点ではまだ知らないでいる。
同じ道を歩いてもつまらない、ということでBARの帰りは『凱旋門』や『戦没者慰霊碑』などを巡りながら宿に戻った。
「『Millenium Cross(ミレニアム・クロス)』行ってみた?」
「ああいうのはカップル専用でしょ?」
河を背にし、東の山あいを望むとライトアップされた十字架が浮かんでいる。(前日写真5)
この街の新しいシンボルらしく、3年ほど前にロープウェイも引かれ、国内旅行者を集めているようだ。
それにしてもこの街はどこを歩いても銅像だらけ、ラルフは通りの先に新しい銅像を見つける度に楽しそうに眺めている。

昨夜飲み交わした『スタラ・チャルシヤ』をふたたび目指す。
朝の肌寒さはどこへやら、すでにきつい陽射しが降り注いでいた。
商店が並ぶ通りを抜け、大通りを越える陸橋を渡り、城塞が見える方向へ歩みを進めた。
奥へ進むと『オールド・バザール』と呼ばれる市場があるらしく、なんとなくそちらを目指して歩いたが、
それらしい場所には当たらず、舗装の行き届かない路地裏を迷い歩いていた。
そろそろ探りを入れるかと、テラスの階段でタバコを吸っている男性に声をかけた。
「すみません、『オールド・バザール』はどっちですか?」
「そっちじゃなくて、こっちに進めば行き当たるよ。君はナニ人?」
どうやら大回りして歩いていたようで近道を教えてくれた。
「日本人です」
「この国で日本人はめずらしいね。旅行者かい?」
「半分旅行で半分仕事ですね、フリーランスのライターなので」
「それはなおさらおもしろい。よかったらホテル、観ていかないか?」
宿から歩いてきていたので、かなり汗だくになっていてエアコンが恋しかったこともあり、お招きに預かることにした。
ビジネス・カード(名刺)を交換し、こちらの身分を明かすとマネージャーの彼は嬉しそうにマスター・キーを手にした。

「4ヶ月前にオープンしたばかりのホテルなんだ、部屋も観ていってくれよ。
日本のガイドブックに書いてくれたら日本からのお客さんがたくさん来るかな、そうだとうれしいね~」
『Hotel Gold』の名もそのままに金色を多く使った部屋の内装は豪華で煌びやかだ。
「この内装、中国系のお客さんにはすごく評判がいいんだ」
(だろうねえ、でも日本人にはどうだろう?)と思いつつ、彼の後に続くと3つほど部屋を見せてくれた。(写真5)
記事になることがあれば、ホテルを紹介することはやぶさかではなかったが、
それよりも通りすがりの旅行者に部屋を見せてくれる心意気がうれしかった。
エアコンの効いた建物でカラダを冷やし、
汗だくのこちらを見かねたのかミネラル・ウォーターのボトルまでもらってしまっていた。
ここでもバルカンの人たちは底抜けに親切だ。

「ありがとうございました。記事になるかわかりませんが写真はいただいていきます」
「ニホンのお客さんが来ることを期待しているよ!」
マネージャーに教えてもらった方向へ行くとこともなく市場にたどり着いた。
異形の野菜、色彩の違う果物、やはり市場は無条件に楽しい。
「写真撮らせて」というと笑われ続けた、野菜の写真を撮る物好きもいないのだろう。
「ちゃいな?」「NO!ジャパン」「お~、じゃぽん」こんなやり取りが繰り返される。
「ハーイ、ジャパーン!」意味なくただ呼ばれ、時には握手も求められた。
カメラ片手の旅行者からいつのまにかタレントのような扱いになっている。
市場の人たちにからかわれているのかもしれなかったが、
ここでくじけたりうんざりすると負けるような気がして、むやみに元気に受け答えすることにした。
悪意は感じなかったのでバルカンの人の無邪気さであることを願いつつ、その無邪気さに負けない無邪気さを装った。

「モモ、クダサイ」
暑さに負けてフルーツでエネルギー補給、うず高く積まれた桃を指さした。
「どっちがいい?」
「ドッチって?」
「『固いの』と『柔らかいの』だよ」
「おお~、そういうことか。じゃあ、両方ください」
もはや英語はまったく通じていない、身振りと手振り、ニュアンスとイメージで相手の言っていることを理解するだけだ。
なにせこの国に来てからは書いてあることすら理解ができなくなっている、
アルファベットなら音をたどることもできるが、
「キリル文字」というギリシャだかロシアだかのスラブ系の読めない文字がホトンドなのだ
「10デナリだ、袋いるかい?」
「すぐ食べるからいらない」
ソフトボールぐらいある桃が2個で20円(!)、八百屋のニイチャンがうまそうなやつを見繕ってくれた。(写真8)

「食べるなら後ろに水道があるから、あそこで洗って食べな」
もちろんナニを言っているかわからないのだが、そんな感じで会話的なものが成り立っていた。
市場の裏手にある水道で桃を洗うとさっきのニイチャンがこちらを見てきたので、
桃を掲げ、カブりついて見せると、親指を立てて笑っていた。
ひとつはパキパキにプラムのように固く、ひとつは日本の桃に近い歯触り、
もちろん甘さは日本の桃には遠く及ばないが、1個10円、市場直送ならすべて許せないか。
すでに40度近い気温の下、ざっくり洗っただけの桃がカラダに染み渡っていく。
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