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第十五夜 Another Community @Skopje [Macedonia]

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フレッシュなコーヒーとフレッシュなドミトリーに出会い、移動の疲れは吹き飛んでいた。

いつもなら荷物を置いてすぐ出かけるところだが、コーヒーの香りに足止めされ、
「ラルフ」と名乗るニュージーランド人とのコーヒー・タイムが盛り上がり、少しばかり出かけるタイミングを失っていた。

「ベッド、空いてますか?」

そこに2名のウォークイン客がドアを叩き、空き状況を尋ねてきた。
「空き」を確かめると外で待っていた仲間を呼び寄せ、ホステルは急に慌ただしくなった。
彼らはなんと12名のグループだという。
近郊の森でトレッキングしていた際ににわか雨に降られたらしく、
上着もバックパックもズブ濡れでみなが疲れた顔をしていた。

「こっち、座れば?」

空になったカップを下げ、リビングのシートを彼らに譲った。
英語がニガテな人がほとんどのようでどこから来たのか尋ねると「チェコ」というシンプルな回答だけがきた。

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「悪いわね、場所取っちゃって」

オーナーのニコレッタさんが気を使って言う。

「いいんですよ。大口客だから、ビジネスに専念してください」

「たしかにビッグ・ビジネスだわ」

明るいジョークで返してきた彼女に「出かけてきますね」と声をかけ、ホステルを後にした。

バス・ターミナルから『ヴァルダル河』へ向かう途中、大きなショッピング・モールを発見。
『Skopje Shoping Center(スコピエ・ショッピング・センター)』と書かれた大きなモールだったが、
お世辞にも盛況とは言い難く、アジアの田舎のショッピング・ビルのようにシャッターを下ろした店舗が多く、
ビル内はひなびた感じが漂っていた。

大型スーパーが中にあり、そこだけは客を集めている。
旅先でスーパーを見つけ出すと滞在のリズムを掴んだ気になり、見知らぬ街の緊張が少しだけ解けたような気になる。
マケドニアの首都でもまずはひと安心、なんのための安心だ?

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羽田空港から10分のホテルを予約/ホテルマイステイズ 

『Vardar(ヴァルダル河)』沿いは広い舗道になっていて、キックボードの子供やスケボー、自転車も行き交っている。

対岸には得体のしれないバカデカイ建物が鎮座していた。
見ている者の遠近感を狂わすようなサイズ感で、そいつが軒を連ねている。
社会主義のユーゴ時代に作られたものだろうか、どう見ても政府関連の建物にしか思えない荘厳さだったが、
歩きながらではその建物がナニなのかも確かめようはない。
そこが博物館や劇場であることがわかったのは宿に戻って、ネットで地図を見てからだった。

橋には大きな彫像がいくつも置かれ、辺りのカフェや土産店とのバランスがいかにも狂っている。
パースが狂っているというか、遠近法がおかしくなっているというか、そういう感じなのだ。

「マケドニア」という国の首都のド真ん中で、なんだか不思議な空間にたどり着いたような気分に陥っていた。

オフリッド同様、市内地図を手にできていないのもそのことに拍車をかけていた。
通りを歩いても無料の地図が手に入らない。
観光案内所はすでに閉まっている時間で、おまけに街角には無料の地図らしきものは一切置かれていない。
バス・ターミナルにも置いていなかったので、勘だけで歩き続けていた。

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体よく迷い、程よく彷徨いながら、宿に戻った。

「ご飯食べに行かないか?」

さっき語らったニュージーの彼に声をかけられた。

「ああ、いいね。彼女に美味しい店を聞いて一人で行こうと思っていたんだ」

「僕も一人だからさ。そのアイデアに乗っかっていいかな?」

味気ない一人飯が避けられるなら大歓迎、断る理由はない。
ニコレッタさんに宿からほど近いレストランを数軒教えてもらう、モチロン安くておいしい店を。

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暗くなった通りを歩き、すぐ近くのオススメの店を目指したが、休業らしく、やむなく並びの店に入った。

テラス席を陣取り、料理はハズレがなさそうなチキン・プレートを注文したが、
店員は英語が通じない上にやる気がないようでハズレ臭がプンプンしてきていた。

彼にビール、こちらにはお気に入りの炭酸水がやって来て、グラスを交わすとさらに旅の話を重ねた。
ニュージーランド人の彼は発電所の技術者として働いていたが、仕事を辞め、1年間の旅に出ることにしたという。
その旅の皮切りが日本だったらしく、「国技館でエンドーの試合を見たよ」とか、
「ナントカQでフジヤマに乗った」とかこちらの情報を頼りに日本の思い出を辿ってくれた。

やって来た料理は案の定、平均点レベルで互いに顔を見合わせはしたが、
それよりも一人旅のふたりとしては食事中に話し相手がいることが楽しくもあり、ハッピーでもあった。

「誘ってくれてよかったよ」

こちらが繰り返しそういうと彼も照れくさそうに言う。

「いや、それは僕も一緒だよ、一人旅はいいけど一人のご飯は切ないよね。
 街はもう歩いた? 喰い終わったら『オールド・タウン』に飲みに行かないか?」

『オールド・タウン』は川向こう、城塞近くにある町だが、そちらまでは足を延ばしていなかった。

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夕刻歩いた川沿いから、アレキサンダー大王のバカデカイ彫刻がある『マケドニア広場』に繋がる橋を渡り、
ライトアップされた噴水ではしゃぐ子供を眺めながら、城塞方面を目指して歩く。
すると唐突に一人の男性に話しかけられた。

「キミタチ、向こうへ行くの?」

「あ、ビールでも飲みに行こうかと」

「川を越えて、さらに陸橋を越えると向こうは『アルバニア』だ、気をつけなさい。
 こちらは『マケドニア』、あっちとはコミュニティが違うんだ。
 アルバニア系とは宗教も民族も違うから、同じ街だが違う土地と思ったほうがいい」

「わかりました」

ラルフとふたりで顔を見合わせていた。

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写真を撮っていたこちらを見て観光客と察し、そんなアドバイスをくれたのだろう。
バルカンの人の気質からして、こちらをダマしているようには思えなかったし、
そんな風に観光客をダマしても通りすがりの彼になにか益があるとも思えない。
あるいはただの民族主義者か宗教家かぶれかもしれなかったが、聞いていて悪い気はしなかった。

地図や観光ガイドにはない情報、地元の話、歩いていると見えないものが見えてくる。


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