Bandar Seri Begawan @Bandar Seri Begawan [Brunei Darussalam]
行く宛て無しの宿無しくんはユース・ホステルを離れ、名前の上がったホテルを目指した。
オバチャンスタッフによるとそのホテルはバス・ターミナルの近くらしいので、来た道を戻る。
目印のブルネイ・ホテルはすぐに見つかったが、肝心の安宿が見つからない。
メモしたホテルの名前を噛みしめながらターミナルの周りをうろついた。
通常、どこの街のバス・ターミナルにも周辺に安宿が連なる通りがあり、旅人を集めている。
ところがここバンダル・スリ・ブガワンのターミナルの周りには安宿が並ぶような通りはなく、
大して安くないエコノミー・ホテルがポツンと一軒あるだけだった。
首都とはいえ、町の規模は小さく狭いので、バス・ターミナル周辺に安宿が集う必要がないのかもしれない。
ターミナル周辺を2まわりほどしてようやくメモした安ホテルを探し当てた。
『K.H. Soon Hotel』の正面入口には「上で受付」と書かれていた。
古い建物の階段を上がり、2階のオフィスのドアを開けると、中はエアコンが効いていて心地よかった。
「すみません、部屋ありますか?」
「あら、ホテルならもうひとつ上よ。ここはツアーの代理店よ」
ツドンを巻いた女性がキレイな英語で返してくれた。
間違えたことを詫びて、去ろうとしたこちらの背中に思わぬ言葉がかけられた。
「どの部屋を希望しているの?」
「ドミでもシングルでも、ベッドがあればなんでもOKです」
「うちでも扱っているわよ。上のホテルのドミなら$18、でもシングルは扱ってないの」
「え、安いですね。う~ん、上に行ってシングルの値段聞いてきてからでもいいですか。
「かまわないけど、このオフィス、もうすぐ閉まるわよ。それまでに戻って来てね」
しばしの猶予をもらい、階段を駆け上がるとホテルの入口にはフロントもどきのテーブルがあった。
「シングル・ルーム、空いてますか?」
「シングルはないよ。ドミなら$35だ」
フロントのオッサンはやる気のなさ全開でコーラを飲み、友達としゃべりながら対応してきた。
あれこれ掘り下げても展開しそうもないので「OK」と言い捨てるようにして階段を駆け下りた。
「お待たせ。まだダイジョウブ? $18のドミ、お願いします。カード使えます?」
市内で両替するつもりで、港では最低限両替しただけだったので現金の持ち合わせがなかった。
「カード使えないの。ATMが近くにあるから行ってくる? それぐらいなら待っているわよ」
彼女の声を聴きながら、ポケットにある現金をすべて出してみた。
見慣れないブルネイ・ドルを数えるとちょうど$18、70セント分のコインだけが残った。
「わ、ピッタリ$18だ。とりあえず、これでホームレス&ベッドレスにならずに済みました。
しかも半額近い料金で泊まれることになったし」
「ラッキーね。料金はうちはビジネスだから気にしないで。
オフィスが閉まる直前に飛び込んできて、アナタ、相当ラッキーだわ」
そういうと彼女はお金を数え直し、領収書を切り、
これがそのまま宿のバウチャーになることを説明すると、オフィスを閉める準備をはじめた。
帰り支度をする彼女に礼を言い、先ほど降りてきた階段をまた上がった。
先ほどと同じテンションのオッサンはメンドくさそうにドミトリーの部屋のカギを開けた。
広い部屋には清潔なベッドが5つ並んでいた。
「今のところ、他の客はいないよ。エアコンはあそこでシャワールームは廊下の突き当たりだ」
オッサンは安定したやる気のなさで案内を終えると友達とのおしゃべりに戻っていった。
動き回って暑かったので早速、スイッチを入れるとエアコンは激しい音を立てながら動き出した。
窓の外ではスピーカーから吐き出されるアザーンの声が響き渡っていた。
思いがけない安さでベッドを確保し、「宿無し」くんは回避できたが、
今度は70セントしか持たない「文無し」くんになってしまっていた。
エアコンが部屋を冷やすのを待たずに部屋にデイパックを置き、すぐに表に出ることにした。
ところが夕方のこの時間、街なかの両替店はすでに閉まっていて、
外貨はあるのに現地通貨がない、という旅行者としては一番情けない状態に陥っていた。
夕食はカードが使える店で食べればいいので、大きな不安はなかったが、
港までのバス代とKKに戻るフェリー代が現金で必要だった。
最悪、カードが使えるATMか、明朝、両替店が開くのを待ってから港に向かうかでなんとかなるが、
ミネラル・ウォーターの小さいボトルしか買えない状態で夜を迎えるのはなんとも侘しい。
夜でも開いているショッピング・モールに出向けば、両替店もあるだろうと、
根拠のない自信と経験を背にバンダル・スリ・ブガワン最大というモールを目指した。
途中、大通りで港で話を交わしたドイツ系の彼とバッタリ遭遇した、さすが小さな首都。
「やあ、宿は見つかった?」
バスの乗客同士はなんとなく安宿や観光名所の情報交換をしていて、彼は宿のアテがないといっていたのだ。
併せて泊まるはずだったホステルのハプニングをかいつまんで話した。
「大変だったね、でもいいね、そのドミ。この街は安宿がないみたいなんだ、困ったよ」
「よかったらここのドミ、見てみたら? すぐそこだし」
そういってホテルカードを渡す、ただし彼が泊まるドミトリーは$35だろう。
ラッキーな代理店での顛末は話さないでおいた、すでに事務所は閉まっているのだし。
「Good Luck」、アザーンが響く夕方の街、それぞれの方向に分かれた。
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