Brunei Darussalam @Bandar Seri Begawan [Brunei Darussalam]
5分ほどでバスはやって来た。
古びたマイクロバスに乗り込み、それぞれが空いている席に着くと、
ツドン(tudung・モスリム一般ではヒジャブ(hijab))を被った女性車掌が前から順に料金を集めている。
車掌といっても制服など着ているわけでもなく、普段着にサンダルという出で立ちだ。
彼女に「バンダル・スリ・ブガワン」と告げると「$2」と素っ気ないお答えが。
後ろの外国人旅行者軍団にそれを告げるとみな手際よく料金を用意した。
バスは港湾施設を出ると、少し走っただけで大きな駐車場に入った。
「ここでバスが変わるから、ここで待っていて」
そういわれ、旅行者だけの6名の乗客は閑散とした駐車場に呆然と放り出された。
15時を回っているが、日差しは依然キツイまま、それぞれが黙って日陰に避難した。
10分ほどで別のバスが現れ、乗車券代わりの領収書を確認できた客から詰め込んでいく。
車内はエアコンが効いていて別世界。
苦笑いしながらそれぞれがエアコンの吹き出し口を自分に向け、汗を乾かした。
歩いてやってきた地元の客も乗せると席は8割方が埋まり、バスは満足気に走り出した。
マイクロバスは村というか町内というか、郊外の住宅が並ぶエリアなどを巡り、コトコトと走り続けた。
途中、地元の人を降ろしたり、学校帰りの子供を乗せたり、を繰り返していく。
地元の人は席に落ち着くと「ドコから来たの?」「ナニ人?」などと気さくに声をかけてくる。
どうやらブルネイの人は屈託がないようで、人なつこくて明るい。
彼らが触媒になったようで旅行者同士でも自己紹介、情報交換の会話が盛り上がった。
バス乗り場で声をかけてきた彼は一人旅のドイツ系、
女性2人組はニュージランド人で、男性2人組はイタリア&トルコの連合軍らしい。
車内が外国人旅行者だけになると話し声はさらに大きくなった。
のんびりマイクロバスは1時間かかって市内のバス・ターミナルに到着した。
声を掛け合い、それぞれが自分たちの宿を目指し、散っていく。
こちらもネットで予約したユース・ホステルへ。
プリントアウトした地図では10分か15分歩けば着くような距離なので、
市バスには乗らず、バス・ターミナルから歩くことにした。
日が傾きかける頃合いだというのに気温と湿度は引き下がる気はないようで、
すでにぬるくなったペットボトルの水ではいくら飲んでも涼しさは感じられなかった。
ひとまず荷物をデイパックだけにしたのは正解だった。
10分ほどでひょっこり目的のユースに着いた。
入口の門の脇、日陰になったベンチでジイサンがパンツ一丁で夕涼みしていた。
日陰は風が吹き抜け、別世界のように涼しいがそれにしてもパンツ一丁かい。
「%X#@、ヤテナイヨ。くろーず」
ここがユースかどうか尋ねると英語がわからないのか、身売り手振りでバツを示している。
ナニをイッテイルのコノヒト、と思いつつ、彼の脇を抜け、扉を開け、中に入った。
ユース・ホステルは幼稚園が併設されているらしく、
子供たちが描いたであろう絵が壁一面に飾られている。
事務所のカウンターのオバチャンスタッフに話しかけたが、英語が苦手らしく、
すぐに奥にいる別のオバチャンを大声で呼んだ。
「すみません、チェックイン、お願いします」
「ユース部門はクローズしているわよ」
「え? たびたびHPからもメールしていたんだけど」
奥から現れたオバチャンスタッフにそう説明する。
こちらからメールを数通送っていたのは確かだった、だが返信はもらえていなかった。
本来ならば予約確認をFAXや電話でしっかりするべきなのだろうが、
安宿の常で、行けばちゃんと予約が入っていた、ということは実際よくある事例。
今回もそうだろう、と勝手に思い込み、返信が来ないことは無視して来ていた。
「8月まではクローズなのよ。しかも今日はユース担当の人はもう帰ったわ」
「その人に連絡つきませんか?」
「電話してみるわね」
シーズン制で営業をしているユースがあることは確かだし、電話で聞いてベッドが空くわけではない。
ただユース担当なら他の安宿の情報を知っているかもしれないと思ったのだ。
幼稚園スタッフであろう彼女たちは安宿は知らなかったし、
徒手空拳でここを離れ、知らない街を宿を求めて歩くのはあまりに不安過ぎた。
電話口のオッサンは英語がわかるらしいが、営業してないことを言い訳がましくがなり立ててくる。
こちらはそんなことはもうどうでもよくなっていて、今夜の寝床を確保することが頭を覆っていた。
「ユースの事情は分かりましたから、他に安宿知りませんか?」
「それなら『K.H. Soon』という宿があるけど」
「ケーエイチくん? ナニ? 場所はわかりますか? 連絡先は?」
「場所はブルネイ・ホテルの裏。連絡先はわからない」
電話口のオッサンは明らかにメンドくさそうにそう言い放った。
「ありがとうございます。自分で探します」
これ以上、助けになりそうもなかったので、オバチャンスタッフに電話を返した。
自分の家の電話なら受話器を叩きつけたいようなそんな感情を抑えつつ。
知らない国、知らない街、知らない土地、とりあえず今は宿無し。
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