第二十三夜 Local Charm @Istanbul [Turkey]
正午を待たずに気温はぐんぐん上がっていた。
海を目指して丘を下って行くと狭い路地に入り込み、ほどよく迷子になりながら歩みを進めた。
特別な予定も約束の縛りもない旅先の歩きほど楽しいものはない、
気になるものを見つけてはカメラを取り出し、気に入った場所では立ち止まり、困ったら誰かに声をかける、そんなひと時。
ただし10分歩いただけでシャツはすっかり汗まみれ、こちらはあまり気分がいいとはいえない。
海岸線を走る「T1」のトラムの線路を越え、ようやく『マルマラ海』に出会えた。
船着き場ではボスポラス海峡のクルーズから戻った観光客が上気した顔で船をバックに写真を撮っている。
彼らを無視して『フンドゥクル駅』から『カバタシュ駅』まで歩き、さらに進むと宮殿の入口が見えてきた。
『Dolmabahce Sarayi(ドルマバフチェ宮殿)』は入場規制があり、事前予約がなければ内部見学ができない。
そのことは知っていたがクルーズ船、つまり海から眺めたことしかなかったので、なんとなく歩み寄ってみたかったのだ。
ただそれだけ、入場できないのにやって来るのは少々イカレているのかもしれない。
宮殿前のCAFEから『マルマラ海』を臨む。
隣りの宮殿越しに『ボスポラス大橋』がそびえているのが見える。
その奥には『ボスポラス海峡』、そして対岸はアジア・サイド、そう、ここはヨーロッパの東端だ。
東の端で西のハズレ『ロカ岬』を訪れたときのことを少し思い出したがあれとは少し感覚が異なる気がしていた。
http://delfin.blog.so-net.ne.jp/2008-04-20 (ポルトガル紀行)
見渡す限り海が広がるだけのあちらは「地の果て」の感じが強く、
こちらは「ヨーロッパのおわり」であると同時に「アジアのはじまり」が広がっている分、「端」に違いがあった。
CAFEでの休息を終え、「T1」線の始発駅『カバタシュ駅』へ戻る。
特に行きたい場所があるわけでもなく、行かなければならない所があるわけでもない、
自由で無目的と書くとステキな響きがするが、縛りのなさには一抹の寂しさもつきまとう。
トラムに乗って唐突に降りてブラつくのもよかったが、アテもないのは虚し過ぎるので、
『ブルーモスク』と『アヤソフィア』にご機嫌伺いに出向くことを小さな目標にしてみた。
トラムのT1線は『ガラタ橋』を渡り、新市街から旧市街へ進んでいく。
ガラタ橋の欄干では長い釣竿を振り回す人たちが肩を並べていて、以前見た光景と変わっていないことが可笑しかった。
あるいは何年か前に見たときと同じメンバーが竿を振り続けているのかもしれない。
橋を渡り切り、旧市街最初の駅でホトンドの乗客が降りて行った。
車内アナウンスの『XXXじゃーみー』『えじぷしゃん△△』という名称が断片的に耳に入ってきた。
ああ、そっか『ガラタ橋』の袂に「スパイス・バザール」があるんだっけ。
大きな荷物を抱えた人たちが乗り込んでくるのを眺めながら、少しずつ記憶を蘇らせていた。
あわてて地図を広げ、今の駅『エミノニュ駅』に印をつけた、これで午後の目的地は決まったんじゃないかい。
トラムは狭い通りを縫うように走っていく。
今ではエアコンの効いた最新型の車両が古い街並みをスマートに進んでいるが、
かつては『イスティクラル通り』を走っているような旧式の「路面電車」が店先を舐めるように駆けていた。
古い車体がカーブでスピードを落とすと飛び乗る客や飛び降りていく客がいて、
サンフランシスコの路面電車よりスリリングで生活感があり、それは「イスタンブールらしい」と感じさせてくれる情景だった。
ちなみにイスタンブールやローマなど歴史ある街では地下鉄開発がままならないという笑えない実状がある。
なにせ少し掘ると遺跡にぶち当たり、すぐに調査対象となり、工事どころではなくなってしまうのだ。
それでも膨張している大都市イスタンブールはやむにやまれず地下鉄延伸に力を入れているようだが。
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トラムは『スルタン・アフメット駅』に到着した。
遠目に『アヤソフィア』と『ブルーモスク(スルタン・アフメット・ジャーミィ)』のミナレットが見える。
歩みを進め、観光客が行き交う『スルタン・アフメット広場』に立つと、
左手に『アヤソフィア』、右手に『ブルーモスク』という贅沢な景色を手に入る。
ああ、何年振りでこの場所に来たのだろう、やっと自分の旅でこの街を訪れることができた。
ツアコンをしながらも好きだったこの国にはいつか自分の旅で来てみたかった、ようやくその時がきたのだ。
う~ん、これじゃあ過去の感慨に浸るご老人か、まあ、涙が出ない分、衰えてはいないようだけど。
シンボリックな2つの建物の存在を確認し、ふたたびトラムの駅に戻り、やって来た車両に乗り込んだ。
何度も訪れた場所だからね、建物の中に入らなくてもいいのだ、そこに居てくれることを確認できただけで。
そういえば線路を挟んだ反対側の『Yerebatan Sarniti(地下宮殿)』にお客さんを連れてくるのが、裏ワザだったなあ。
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当時、メデューサのある貯水池の『地下宮殿』はツアーのコースに含まれていなかったので、
帰国前の自由時間などに希望者を募って連れてくることがあったっけ。
新市街に宿泊した際は『Galata Kurlesi(ガラタ塔)』やアガサ・クリスティの常宿『Pera Palace Hotel』を案内したりね。
そんな風に自分たちの足でトラムに乗り、街をブラつくことを喜んでくれるお客さんが多かったなあ。
おいおい、また想い出に浸ってるぜ、記憶を手繰らず、知らない通りを歩け歩け。
今度は『エミノニュ駅』で一斉に下車する乗客の一人となり、『Yeni Cami(イェニ・ジャーミィ)』前の広場に吐き出された。
『イェニ・ジャーミィ』へ踏み入れ、モスクの中でしばし暑さ除け、寛ぎの時間。
その後は『Misir Carsisi』へ踏み込んで行く、トルコ語で『ムスル・チャルシュス』という名の市場だが、
その名称よりも「エジプシャン・バザール」あるいは「スパイス・バザール」という通り名で有名な場所だ。
ローカル・マーケットらしく、買い出しの主婦や嗜好品を探し求める旦那衆が多い。
彼らの行き手を遮る浮ついた観光客も多いが、ここは『Kapali Carusi(グランバザール)』のように観光客にかまわない。
ジャマな自撮りは弾かれるし、店先を塞げば威勢のいいトルコ語でけしかけられる。
もっともその対象はトルコ語も英語も通じない中国人グループがホトンドだが。
『グランバザール』のようにウンザリするような日本語やシツコイ土産物セールスにも遭わないのがいい。
もっともボサボサ髪でサングラス姿の181cmのオトコに声をかけようと思わないだけかもしれないけど。
市場はどこの国でもエネルギーに溢れていて、眺めているだけで楽しい。
チャイがホトンドであまりコーヒーを飲まないトルコの人がコーヒー豆の卸売屋に行列していたり、
路地の角でカットしたフルーツを売っていたり、「試食しなよ」と気さくに声をかけてくれるチーズ屋さんがいたり、
せわしくもあり、活気があり、暖かくもある。
気づくとファインダーを覗き、写真の枚数が増えていく、
旅先では歴史的建造物よりもエネルギーに溢れた市場に興奮するようで、写真の枚数がそれを示していた。
それにしても、もはやこの時間ともなるとイヤハヤただただ「熱い」。
纏わりつく湿度と高い気温を避けるため、ひょっこり出会ったモスクに歩みを進め、中でクールダウン。
宗教施設の使い方としては間違っているかもしれないが、石造りの建物は外気を遮断し、ひと心地つくにはいい。
熱さに負けないぐらい、市場を歩き回ることと写真を撮ることに熱中していたが、気づけば時計は午後に傾いていた。
ふと空腹を覚え、エアコンの効いた食堂にでも逃げ込もうかと思った矢先、香ばしい薫りが鼻先をかすめた。
トルコ料理でおなじみ縦軸に回る「ドネル・ケバブ」とちょっと趣が違う。
ちなみに「ドネル」は回転、「ケバブ」は焼肉、ザックリ書くと「回転焼き」、それじゃあザックリし過ぎか。
カウンターもなにもない店先でどこかの店員さんやジャケット姿のビジネスマンがサンドウィッチを頬張っている。
横に回転し、ローストされている肉よりも地元のオトコたちに愛されているであろう店のたたずまいが気に入った。
「すみません、コレ、ひとつ」
前の男性がテイクアウトしていくのを見て、指差してそう頼んだ。
料理名もシステムもわからないときは「同じヤツ」攻撃が有効だ。
「OK、5リラのやつでいいかい?」
赤いエプロンを着けたオヤジさんが手際よく注文を受けてくれ、少しの間、店の脇で待っていると声をかけてくれた。
「ほい、こっちにきて食べな」
そういうと前の客が去った店先のバー・テーブルを片付け、サンドイッチを置いてくれた。
向かいではネクタイ姿のビジネスマンが『アイラン』(ドリンク状のヨーグルト)片手にサンドイッチを頬張っている。
「中国人かい?」
「いや、日本人です」
「あ、そうか、ごめん、最近はチーノ(中国人の通称)の観光客が多くてね。
日本かあ、じゃあ、カラテの国だ、ほわあ~、ぶるーす・り~、じゃっき~・ちぇーん」
「カラテはあっているけど、ブルースもジャッキーも香港、中国人だよ」
「え? そうなのか? 日本人で知っているのはナカタ~、ホンダ~、トヨ~ダ、ヤマハ、スズキ・・・」
「あはは、サッカー選手と自動車メーカーがゴチャゴチャじゃないかあ。
日本人旅行者も多いと思うけど、日本人に対するイメージってあります?」
「う~ん、すごく頭がいい(スマート)国民だよね、そういう印象だ、それに静かかな。
なにしろ中国人はうるさくてかなわないよ」
「このお店は家族でやってるんですか? あ、こっちにも『アイラン』ください」
注文の品を運んだり、テイクアウトを袋詰めしたり、同じエプロンを着けた若い男のコが指示されたまま、マメに動いている。
その彼がカップ入りの『アイラン』を持ってきてくれた。
脂っこい肉料理にはこいつが合うし、サラダのドレッシングにもヨーグルトが合うことをトルコに来るようになって覚えた。
自宅ではもっぱらプレーンのヨーグルトをかき混ぜて、水で割り、インチキ・アイランを愛用しているのだ。
「肉を焼いているのはおれの弟。こいつは息子さ、最近になって店を手伝うようになったんだ」
そういってオヤジさんは息子の肩を抱き寄せた。
父子の仲いい姿を撮らせて、と頼んだら、息子は照れ隠しで忙しく店先を掃除しはじめた。(写真7)
どこの国でも思春期の男のコなんてそんなもんだ。
トルコの人たちは家族で店を営んだり、仕事を切り盛りすることが多い。
ツアー・バスのドライバーも息子や甥っ子をアシスタントとして同乗させていた。
若い彼らに話しを聞くと「父親のあとを継ぐのは当たり前」という言葉が返ってくることが当たり前だった。
サンドイッチ5リラ+アイラン1リラ、計6リラ(≒300円)のお気軽ランチ。
店先にぶら下がったメニューには『YARIM』と書いてあったがそれがなんの料理なんだか。
(後ほど調べると『YARIM』はハーフサイズの意味かな。ただし未確認情報で憶測の域です)
市場の傍らで地元の人と肩を並べ、地元の味を楽しみ、地元の人と語らう、ああ、なんて楽しいひと時。
Misir Carsisi(スパイス・バザール)
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