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第十七夜 Political Situation @Pristina [Kosovo]

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18:30のバスに合わせ、ターミナルへ向かった。

午前中の往復は手ぶらだからよかったが、バゲージありで歩くには少し遠いので、
「6A」という市バスを捕まえた。
バス・ターミナルへのバス番号は宿のスタッフにしっかり教えてもらったものだ。

車掌に促され、手前の住宅街で降り、人の流れを追いながら、バス・ターミナルを目指し、少しばかり歩いた。
陽が傾く時間だというのに暑さは癒えることはなく、
短い距離を歩いただけでも荷物を背負った背中にはビッシリ汗をかいていた。(写真7)

『ノヴィ・パザール』行きのバスは時間前にやって来た。

チケットを見せ、トランクに荷物を放り込む。
(どうやら荷物代は取られないのね)などと小さいことを考えていると、
「パスポート用意してあるか?」「ナニ人だ?」「スタンプあるか?」など、
バスの傍らにいたドライバーやスタッフに矢継ぎ早に質問を浴びせかけられた。

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「あるよ。日本人だよ。どのスタンプ?」と冷静に切り返しながらも
ノヴィ・パザールで乗り継ぐことに不安を感じていたので、
「ノヴィ・パザールからベオグラードに行きたいんだけど乗り継ぎはカンタン?」と逆に質問を投げかけた。

「ああ、それならノヴィ・パザールで5~10分ぐらいで乗り継いで行けるよ」

わかりやすい答えをもらって、少しばかり不安が溶けた気にはなったが、
話しは話し、現地入りしてチケットを手にしないことには道行きの安心を得たとは言いがたかった。
「バス路線がない」とか「プラスティックのイスに座らされる」ようなことはないと思うが。

それよりも先ほどからドライバーがこちらのパスポートを手に取り、パラパラとページをめくり続けている。

「セルビアのスタンプはないのか?」

「マケドニアから入ってきたからないですよ」

「セルビアのスタンプがないと入国はできないぞ?」

「え? なんです? それ?」

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雄弁にまくし立ててくる彼らの説明をゆっくり噛み砕くと、
バルカンの「ややこしい政治的事情」が存在するということがわかった。
セルビアからすると「コソヴォはセルビアの一部」であるため、
コソヴォの入国スタンプ(入国ヴィザ)を受けた者はセルビア入国を拒まれる可能性があるという。
セルビアからコソヴォに来て、再度セルビアに入国する分にはおとがめなし、ということらしい。

さらに言うと「お前は日本人だから行ける(入国できる)かもしれないが、拒まれる可能性も高い」ということ。
従ってバスに乗せることはできるが、入国できない(認められない)場合、国境で降ろしていくことになる、
というのがドライバーの話しだ。

「え~」

う~ん、それでバルカンを旅する人は時計回りで南下してくる人が多いのか。
ホステルで擦れ違う旅人に北から回ってくる人が多いことを薄々感じていたが、
ヨーロッパから入れば時計回りでしょ、ぐらいにしか考えず、特に気にも留めていなかった。
それにしてもここでバス会社のスタッフやドライバー相手に揉めていてもなにも解決しないことは明らかだった。

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「で? どうしたらいい?」

こういう時は原因や理由を求めても仕方がない、
次にナニをするべきかを事情通に教えてもらい、結論を導き出すことが先決だ。

「一旦、モンテ・ネグロかボスニアに行って、そっちからセルビアを目指すしかない」

「なるほど。コソヴォからの越境が無理ということですね?」

「隣のバスが『ウルツィニ』行きのバスだ、それで行けるか?」

「『ウルツィニ』なら乗り換えで行ったことがあるからなんとかなるかな。 で、このチケットは破棄?」

セコいようだが、手元には乗らない予定の『ベオグラード』行き7,5ユーロのチケットがあった。
ちなみに『ウルツィニ』はアルバニア・ティラナ行きのバスでステキな「プラスティックのイス」に出会った場所だ。
http://delfin2.blog.so-net.ne.jp/2015-01-22

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「あのお~、にほんノヒトデスカ?」

若い学生風の男の子が売店のサンドイッチを頬張りながら声をかけてきた。

「はい、日本の人です。あなたは韓国の人?」

「ソウデス、日本語スコシワカルので。ソノちけっと、ぼくカイマス」

「え? そうなの? それは助かるけど」

「ばす乗ってちけっと払うツモリダッタので。モンダイないです」

「わあ、カムサハムニダ。 サンドイチ、マシッソ?」

どうやら日本語で文句を言うでもなく、独りごちていたのが聞こえていたらしく、
日本語がわかる韓国人の彼が助け舟を出してくれたようだ。
あわせて彼はコソヴォからのセルビア入国が難しい事情を日本語と韓国語を織り交ぜて説明してくれた。

「ぼく、せるびあカラキタだから、モドルはモンダイないですよ」

そういってお金とチケットを交換すると彼はサンドイッチを片手に『ベオグラード』行きのバス車内へ消えていった。

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「バゲージ、降ろしたかい?」

セルビア入国に警鐘を鳴らしてくれたドライバーが最後に声をかけてくれた。

「降ろしました。いろいろありがとうございました!」

彼と握手をして『ベオグラード』行きのバスを見送る、定刻通りの出発だ。
気分的にはなんとも複雑、国境に置き去りにされる悲劇は回避できたわけだが、
ひとまずここプリシュティナに置き去りにされていた。
しかもこの先どうなるかがなにも見えていないが、
国境に置き去りにされるよりかはましな状況であることは確かだ。
するとバスを待っていた乗客たちがアレヤコレヤと話しかけてきてくれた。

「こっちのバスで『ウルツィニ』に行くよりも『ポドゴリツァ』に出たほうが本数も多いし、乗り継ぎやすいよ」
「この時間だと乗り継げるバスはないかもしれんな」
「慌てて『ウルツィニ』に行くより『ポドゴリツァ』が便利だろ、このあとにバスも来るし」

情景的には「セルビア入りできない哀れな日本人を囲む」の図、
無知なこちらをさておき、周りの人たちの話しは盛り上がっていた。
なにも情報を持たないこちらとしては彼らの提案のひとつひとつがありがたく、頭を垂れて教えを乞うしかなかった。

あらためてカウンターに向かい、『Podgorica(ポドゴリツァ)』行きのチケット、16ユーロで買い直す。
ベオグラード行きの倍近くするので「高いなあ」などと邪な思いが走る、
そんなことを考えている状況ではないのに。

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『ポドゴリツァ』行きのバスは20:00、それまでカフェでコーヒーを飲み、出発を待った。

定刻通り出発したバスは20:45、隣町『Peja(ペヤ)』で客を下ろし、21:10、トイレ休憩、
22:10、モンテ・ネグロ国境で20分を費やすと、ようやく休まず、本格的に走りだした。

モンテ・ネグロに入国すると山あいの峠が続き、車内はグンと冷えだし、ヒーターも入らない状態で、
短パン・半そでのスタイルでは寒くてやりきれなくなるほど冷えてきていた。

0:30、峠道でトイレ・ストップした際、トランクを開けてもらい、バゲージからロングのパンツを取り出す。
まさかザグレブで一番下に押し込んだロングのパンツが夏のバルカンで必要になるとは驚きだ。
「モンテ」=山、「ネグロ」=黒、まさに山の国なのですね。
着込んだことで寒い車内でもなんとか眠りに落ちることができた。

2:40、モンテ・ネグロの首都『ポドゴリツァ』のバス・ターミナルに到着した。

一般道を7時間近く走った計算、バス料金が高いのも頷けた。
小さなモンテネグロは『コトール』の町だけでいいかな、と思っていたので、想定外の「首都」訪問。
といっても薄暗いバス・ターミナルに来ただけなのだが。
ちなみにここは「事実上の首都」で憲法上は「ツェティニェ」とされていてややこしくもある。

ターミナル内には5名ほどの乗客が残っていて、施設内では小さなカフェだけがひっそりと営業していた。
人のいないチケット売り場に声をかけると、奥から深夜番なのか眠そうな男性が顔を出した。

「サラエヴォ行きは7:40、18,5ユーロ、チケットは朝購入してもダイジョウブですよ」

退屈な深夜番に違いないが、親切にそう教えてくれ、こちらが理解したことを確かめると彼はまた奥に戻って行った。

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そう、トイレ休憩の際、カフェで地図を広げ、旅のプランを練り直していた。
ボスニア=ヘルツェゴヴィナの首都『サラエヴォ』に次の狙いを定め、ここからおもむろに「時計回り」を決め込み、
その後、セルビアの『ベオグラード』に向かうことに行程を変えた、いや、変えざるを得ないのだった。

実は『ベオグラード』に到着した場合、西にあるボスニア=ヘルツェゴヴィナをどう訪問するかがネックだった。
セルビアを訪れた後、ブルガリア、ルーマニアと東に向かい、トルコ方面に流れていくのがスムーズで、
西に位置するボスニア=ヘルツェゴヴィナはベオグラードから「タッチ&ゴー」で往復するしかないようだったのだ。
この際、この災いが転じて回りやすくなった、と好都合に考えることにした。

次のバスまであと5時間、カフェでマキアートを頼み、腰を下ろした。


プリシュティナからポドゴリツァへ
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