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第十三夜 Thousand Evening @Berati [Albania]

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川沿いに町の西側に流れ、隣町の手前にあるというミニバス乗り場を探した。

「行き先が決まる」か「宿を決める」かしないと観光どころではない。
なにしろ今夜の身の振り方が決まっていないのだ、
「行き先不明」「ルームレス」では不安にならないほうがおかしい。

観光案内所で教えてもらった「ミニバス乗り場があるかも」というか細い情報を手繰り寄せるようにただ歩いた。
途中、カフェで一服する人や擦れ違う人を見つけては、
「みにばす、みにばす」「じろかすとら、じろかすとら」と呪文のように尋ね、
できることといえばなんとなく示された方向へ歩いて行くだけだった。

30分以上歩いただろうか、商店や食堂が少しばかり連なる通りが見えた。
反対車線ではバスを待つ人たちの姿も見え、手繰り寄せた糸が紐ぐらいなった気になっていると、声をかけられた。

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「ドコ、イクンダ?」

「じろかすとら~」

「タクシーどうだ?」

「ミニバスないの?」

「ジロまではミニバスはないよ、タクシーなら行くけど?」

「バスはない」というのは世界各地でタクシー・ドライバーが使う常套句、こればかりはバルカンの優しさもない。
試しにタクシー料金を尋ねると、バス料金よりも一桁上の金額を告げられる。
呆れて首を横に振ると、奥から別のドライバーが声をかけてきた。

「向こうにミニバス乗り場はあるけどジロカストラ行きのバスはないよ。
 あったとしても夕方のこの時間から出るバスはないよ、もう近場行きしかないぞ」

ティラナ行きがそうであるように遠距離のミニバスは昼頃までに終わってしまうらしい
地元の人中心の路線なので、利用者がなければ走る意味がないのだろう。
タクシー・ドライバーの顔が連なる中からアルバニア人の素顔で現れてくれたことに感謝しつつ、礼を言う。

「ありがとうございます、ベラーティに戻ります」

店先で冷たい飲み物を買い、一気に飲み干すとふたたび荷物を背負い込んだ、

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結局、バカみたいにベラーティの北西の町外れ、あるいは隣町まで歩いたものの、「足」は見つからずに終わった。
散々歩いた距離を同じように歩いて戻るが、荷物を背負ったまま、この旅で一番長い距離を歩いている。
荷物や歩く距離よりも目的を果たせず、旅の行程が決まらないことで疲労困憊していた。

夕方の時間を大いにムダに過ごし、ただ疲れて元の場所に戻ってきていた。

夕方、といえどバルカンの夏の太陽は元気で、おかまいなしに日焼けするような強さを見せている。
成しえたことは2Lのミネラル・ウォーターのボトルが軽くなったことぐらいか。
手繰り寄せた糸はブッツリと切れていたし。

こうなるとやることはひとつ、ベラーティの町での宿探しだ。

この時間になると「客引きモンスター」は姿を見せず、こちらの都合に合わせてはくれない、今なら食いつくのにね。
いわゆるホステルやゲストハウスがあるような街のサイズではないので、少しばかり不安があったが、
小さな町の中に時折「ROOM」という文字を見かけていたので、そこを頼りに歩くつもりだった。
最悪、どこもなければ「マンガレム・ホテル」にウォークインでもいい、と腹を決めていた。

「ROOM」表示を出しているところはおそらく「民泊」スタイルで泊まれるのだろう、
クロアチアでいうところの「SOBE」のようなものだろうが、宿泊料の相場がわからないのが心配だった。

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一軒目の「ROOM」表示に飛び込む。

上品な感じの夫婦が出迎える。
貸せるような部屋があるのだから、少しばかりは裕福な暮らしをしている家族なのかな、と身なりを見て邪推する。

「1ナイト15ユーロ」

「10ユーロになりません?」

「無理無理」

まあ、無理を承知で言ってみたんだけどね、一応、相場調査の一軒目なのでね。
2000円ちょっとなら悪くない、(この時のレートは1ユーロ≒¥135)
客引きモンスターが最終的に「25ユーロ」まで自主的ディスカウントをしたことを考えると妥当だ。

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通りを挟んだ路地、ランチを食べた『マンガレム・ホテル』の前にあった「ROOM」表示に当たってみる。

家族揃ってご登場、英語を話せる娘が交渉役のようだ。

「うちは1ルーム10ユーロよ」

「ホット・シャワー出ます?」

「出るわよ、見てみる?」

安宿を借りる際、部屋や設備を確認するのは当たり前の手順。
このところネット予約でブッキングしていたばかりだったので、バック・パッキングの基礎を忘れかけていた。

「ああ! 見てみます。キレイな部屋にシャワー・ルームですね。
 ところでユーロを持ってないんだけど、キャッシュでUS$10ではどうですか?」

シャワーや部屋のエアコンを確認しながら、軽く値切り交渉、娘はどうするか両親に尋ねている。

「USドルでもいいわよ、ただしキャッシュね」

その答えをもらい、相手の気が変わらないうちに$10を渡し、部屋のカギと玄関口のカギを受け取った。

この時、USドルは99円ほど、1,350円の宿が1,000円を切ったことになる。
拍子抜けするぐらいアッサリと値切り交渉は成功、
たかが300円というなかれ、『マンガレム・ホテル』のレストランでパスタとアイスティが頼めるんですぜ。
http://delfin2.blog.so-net.ne.jp/2015-02-01 (前日の記事)

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みなさんも値段交渉の際、「キャッシュ」という言葉をお忘れなく。
これは安宿でもショッピングでも最後のプッシュに使えます。
散々値切っておいて、クレジットカードで払われると店側は3~5%の手数料をクレジット会社に払うことになり、
そこでも儲けを失うので、「キャッシュ」という言葉に強みが出てきます、ぜひとも最後にお試しあれ。

「じゃあ、わたしたちは夕食に出るから」

日曜の夜、ということもあって、彼ら家族は食事に出かけるらしい。
その言葉を聞いて、夕食を食べなくてはならないことを思い出したが、食べる気力が起きないほど疲れてもいた。

エアコンのスイッチを入れ、シャワーを浴び、少しばかり元気を取り戻し、風呂上がりのラフな格好でフロアを確かめる。

4階建てのビルの2階の一室を間借りしたようだったが、他の2室には人がいなかった。
家族は上のフロアで暮らしているようなので、
結果、リビング、キッチン、シャワーを独り占めするどころか、2階のフロア自体を貸し切ったような状態だった。(写真2)
これで990円は悪くないんでないかい、などとテラスから日の落ちた町を眺め、ひとりごちた。

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すっかり暗くなった町に繰り出し、夕食を食べられるような店を探して歩いた。

するとライトアップされた世界遺産の町が出迎えてくれた、夜の「千の窓の町」だ。
こうなると食事はどうでもよくなり、夜の景色を撮って歩いた。
あれだけ歩いたのに新たな風景の写真を撮るとなるとまだ足は動くようだ。

「千の窓」に向かうように遊歩道が伸びていて、地元の人たちがゆっくりと行き交っている。

陽が落ちて涼しくなったこの時間、家族連れや友達同士で歩きながら、おしゃべりを楽しんでいる様子だ。
傍らにはお馴染みの焼きトウモロコシ屋や綿菓子(写真1)の屋台が散在し、子供たちの足を止めている。
舗道が完成してなくて、ところどころガチャボコなのはEU最貧国の表れ、田舎町のご愛嬌。

路肩に腰を落とし、隣りのオジサンに火をもらい、タバコを燻らせている若者たちもいる。
そういえばこの国では「火持ってない?」と尋ねられることが多いことを思い出した。
先進国の病的な嫌煙シーンとは時代を異にしているようでもあり、吸わない身からしても悪くない情景だ。

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舗道をブラつく人が多いのも先進国にはあまりないシーン。
カンボジアでは夕方になるとアンコール・ワットの水路を囲むように家族連れが夕涼みをしていた。

ちょっと質が違うけど、シンガポールでは日曜となると、
高島屋や伊勢丹の入口の階段がフィリピンやインドネシアのアマサン(お手伝いさん)で埋め尽くされる。

エアコンなしで生活する彼らにとってはデパートの入口に水辺の涼あり、
かつての日本でも縁側がそういう場所であり、井戸端がそういう機会でもあったのでしょうね。
そこに集い、語らい、情報交換、ネットやSNSだけで繋がる現代とは隔世の感、
発展するのはいいことなのか、便利になることはシアワセなのか、バルカン半島の片隅で考えさせられたり。

ノスタルジーに浸るよりも、おなかにナニカをブチ込んで、早いであろう明日の朝に備えないと。


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