第十三夜 Bewildering Moment @Berati [Albania]
雨宿りに飛び込んだ軒先はカフェのようだったが、開けっぴろげの店にはひと気がなかった。
声をかけたが誰も出てくる気配もない。
14時と一番熱い時間帯だったので、シエスタなのかもしれないが、開けっ放しでお昼寝かい。
いやいや、カフェが昼寝するなよん、と思いつつもこの国はのどかであり、安全であり、心地よくもある。
別のカフェを探そうと思ったが、気温の高い中、降り続く雨の激しさは衰えない。
軒先沿いに歩くと店先のウィンドウにアテネやスパルタなどギリシャの地名と料金が貼られていた。
インターナショナル・バスのチケットを扱う店らしい、南下すればそこはギリシャ国境だ。
本来ならばバス・ターミナルで次の行き先の情報収集をするところだが、
スコールの中、降ろされた場所はターミナルどころか、
チケット売り場もないような教会前の広場のような駐車場のような場所でしかなかった。(前日写真7)
この先、マケドニアへのバス・ルートがあるかもわからない状態で乗り込んできた身としては不安の塊、
そんな状態で激しい雨に打たれた、というワケでかなり萎れてはいる。
こういうときはおとなしく萎れていてもしかたがない、
動けば状況は動き出す、と教えてくれたのは我が愛しきボストンの探偵だ。
「すみません、オフリッド湖方面のチケットは扱ってますか?」
バス・チケットを扱う店は家族で営んでいる店らしく、小さなカウンターの前では男の子が遊んでいた。
ダンナは英語があまりわからないらしいので地図を取り出し、行きたい場所を示し、訥々と伝えた。
その横から奥さんが「お客さん来たからこっちに来なさい」といいつつ、子供の手を引いた。
ごめんね、客じゃないのにね。
「うちはギリシャ方面中心だからわからんなあ。他の店で詳しいのがいるから聞いてみようか?」
「すみません、関係ない客で」
「いいんだ、ご覧の通り、雨で客もいないしね。
ただそっち方面に行くバスはないと思うよ、地元の人も乗合タクシーで乗り継いでいくんじゃないかな」
携帯で電話番号を探りつつ、そんな話をしてくれた。
「これ、食べる?」
電話を待つ間、カバンから日本から持ってきていたアメを男の子に示し、奥さんに差し出した。
ところが男の子はガッツリ人見知りモードで、アメを手にするところか、ママの後ろに隠れてしまった。
う~ん、打ち解けるどころか、警戒心丸出しなのね。
「ニホンのキャンディです、よかったら食べてください」
「あら、ウレシイわ。ほら、いただきなさい」
そういうと奥さんは3つばかり取り、ダンナと子供に手渡したが、
男の子はアメへの警戒心も揺らがないようで、喜んで食べるどころか、手すら出さない。
完全にアヤシイ異国人のアヤシイ食べ物扱いで、その素振りがちょっとおかしかった。
アルバニア語で会話をしていたダンナがこちらに話しかける。
「廃止か、運休かわからないけど、やはりオフリッド湖方面へは今はバス・ルートがないようだよ。
南の『ジロカストラ』や『サランダ』行きのバスはあるけどね。
ほかになにか聞いておきたいことあるかい?」
「となるとティラナに戻るバスは何時の便がありますか?」
「ティラナ行きは朝の4:30から30分おきにミニバスが出てる、と言ってる」
「わかりました、ありがとうございます」
電話を切ったダンナがすまなそうに肩をすぼめる。
au端末もドコモ端末もそのまま使える!【mineo】
「すみません、客でもないのに。
え~っと、ファレミンデリト(「ありがとうございます」のアルバニア語)」
「いえいえ。あなたはコリアン?」
「いえ、ジャパニーズです」
「あ、ごめん。韓国人グループはよく見るんだけど、日本人はあまり見ないから」
恐るべし韓国人ツアー、である。
「雨止んだみたいよ」
男の子の手を引いた奥さんが表から声をかける。
「あとは観光案内で聞いてみたら?」
「え?そんなものがあるんですか?」
ダンナは市内の地図を引っ張り出し、観光案内所がある場所に印をつけてくれた。
「ここなら英語もわかるし、バスの情報もあるんじゃないかな」
「ホント、すみません、客でもないのに」
「いいんだ、気にしないで」
家族に別れを告げると、男の子が口の中でアメを転がしているのがわかった。
「イ・シーシェム?(「おいしい」のアルバニア語) じゃあね、バイバイ」
話しかけるとやはりママの後ろに隠れてしまった、どうやらアヤシイままでお別れのようだ。
サッパリとした雨上りの心地よい風が吹く中、目の前のバス・ターミナルもどきの広場に戻り、
チケット売り場らしきものを探したが、それらしきものは見当たらなかった。
この町の人はどうやってバスの時刻を知るんだろう、料金はどうなってるんだろう、
おれはどこに行けるのだろう、などと思案を巡らせていると、唐突に思い出した。
「あれ? さっきのバス、お金払ってないじゃん?」
ビデオを巻き戻すように車内の情景を回想したが、払った記憶もシーンも見当たらない。
ティラナのバス乗り場で、咄嗟に男に導かれ、唐突に動いていたバスに飛び乗ったが、
その男は他の客の料金を集める仕事を終えると、出し抜けにバスを降りていってしまっていた。
着いた際も激しい雨の中、ドライバーに急かされるように他の客に続いてバスから降りたので、会話も交わしてない。
あららら、いくらだったのかもわからないが、どうやらオゴってもらってしまったようだ。
昨日書いた「ヘンな出来事」とはこれが回答、お金を払うシーン、なかったでしょ?
洗い清めたような路面を歩き、観光案内所を目指しているとキックボードに乗った子供が話しかけてきた。
「へ~い、ホテル、ホテル」
どうやらホテルを案内するといっているらしい。
う~ん、新手の客引きか、あるいは自分の家が宿でもやっているのか。
「いらない、いらない」
人差し指を立てて横に振ると、「チャイナ?コリア?」と質問が浴びせられた。
どうやらこの客引きはあまり商売熱心ではないらしい。
「ノー・チャイナ。ノー・コリア。ジャパンだよ~」
「オ~、じゃぱん! カラテ~。チョア~、じゃっきー・ちぇ~ん」
やはり商売よりも遊び優先のご様子の彼がしてみせたポーズはやはりカンフーのそれだった。
ハリウッドにも進出しているジャッキーは世界中で有名だ、
ただし南米だろうがヨーロッパだろうがアフリカだろうが、「カラテ」と「カンフー」の違いはわかっていないようだ。
それならまだいいが、ジャッキー・チェン自体を日本人と思い込んでいる人も多い、子供だけじゃなく、大人にもだ。
「彼は香港人なんだけど」と説明しても詮無きこと、彼らの調子に合わせることにして、
腰に手を当てて、少しだけ空手のポーズを取って見せたりするとかなりウケはいい。
世界各地でウケを取るにはいいポーズって、空手の「カ」の字も知らないけど。
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子供とジャレながら観光案内所への道を目指していると、ホンモノが現れた。
こうなるとRPGで知らない町を歩いているようで、
さっきは「アソビ客引き」、今度は「ホンキ客引き」、モンスターが次々現れる、
生憎、荷物を背負っているのでこちらは逃げ出せず、防御一辺倒だ。。
「ユー・ニードゥ・ホテル?」
客引きのオヤジが観光客向けに覚えたのであろうカタコトの英語で語り掛けてきた。
こういう場合、値段を聞くとハマるので、ご注意を。
「値段を聞く」ということは「興味がある=宿を探している」ということになり、「カモ」認定されてしまう。
こういう場合はこちらからアレコレ尋ねずにアチラがボロを出すのを待った方がいい。
宿は確かに気にはなったが、現状、南からオフリッド湖方面に抜けられるのか、
尻尾を巻いてティラナに帰るのか、あるいはさらに南に向かうのか、
何時のバスがあり、何処へ行けるのかもわからない状態なので、値段を聞き気にもならなかった。
するとオヤジは数少ない「カモ」を見つけ、アセったのか、
「ホット・シャワーだ」とか「30ユーロだ」とか、聞いてもいないことをしゃべりはじめた。
それを聞きながら、興味がない素振りで観光案内所への歩みを進めると、
客引きオヤジは喰えない獲物をあきらめ、去って行った。
さっきまでの雨がウソのように、空は青くキツイ陽射しが降り注いでいる。
『Berati』の町は「千の窓を持つ町」とも呼ばれ、
オスム川を見下ろすように山あいに特徴的な石造りの家が並んでいる。
2005年に『世界遺産』登録された歴史ある町で、
観光案内所はそのメインのスポットでもある川沿いの橋の近くにあった。
案内所の扉には「14:30~15:30は昼休み」と書かれた札が下がっていた、なんて日だ。
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