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第十二夜 Business Meeting @Tirana [Albania]

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―DAY12― 8月16日

今日もしっかり晴れたが、これまでの涼やかな海辺の町とは異なり朝からムシ暑い。

TVニュースが最高気温は35℃です、と告げていた。
朝食を食べようとキッチンに向かうと、個別のプレートが用意されていて、
安宿の朝食とは思えないほどしっかりしたメニューの皿が供されていた。

熱いコーヒーを入れ、そこにたっぷり牛乳を注ぐ。
これだけでもしっかり目覚ましになるがプレートの朝食を頬張った、もちろん遠慮もせずに。
安宿で「朝食付き」となるとパンにジュースぐらいが相場、
それでもナニかを口に入れられるのでうれしい限りだが、
チーズにフルーツまでついているプレートの登場には大いに驚かされた。
ちなみに写真奥にあるイチジクのジャムがも~うウマくて、
ついついパンのお代わりをもらったのはワタシです。(写真2)

う~ん、一泊9,5ユーロでこの朝食がついているなら、もう一泊してもいいかな、などと考えていた。

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昨日のバス移動の疲れを言い訳にして、午前中はのんびり過ごした。
庭にあるベンチで宿の大きな番犬くんとジャレあったり、テラスのソファでコーヒーを飲んだり、
ゆっくり過ごしつつ、やはりもう一泊することを決心し、フロントに告げた。

昨夜の夕食はオドロキの安さで感動ものだった。
1つ30レクの「キョフテ」を5本、「ヨーグルト・ソース」、「パン」、「アイスティ」を頼み、
それに隣の酒飲みオヤジが頼んでいたチーズの盛り合わせが旨そうだったので、それを追加、
少し食べ過ぎて、660レク也というシロモノ。(前日の写真8)

肉をヨーグルト・ソースで食べるモスリム・スタイルはトルコでもモロッコでもお気に入りだったので、
懐かしくもあり、楽しくもあり、食が進んだ。
やたらと物価が安いこの国に長居してオイシイモノで充電しておくのも悪くないな、
なんてことが頭をかすめていた。

実はこの日、午前中をダラダラ過ごし、移動できずに連泊を決めたのにはワケがあった。

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昼の時間にこの旅で唯一のアポイントがあり、人と会わなくてはならなかったのだ、
ここだけ少しばかりのビジネス・モード。
独立間もなく、途上にあるこの国では「観光局」のようなものが整備されておらず、
現地のランド・オペレーター(現地手配会社)がその役割を担っている。
訪問ついでにそこの担当に話を伺おう、というワケですね。

ちょっとここで本職が顔を出し、
まだ発刊されてない「バルカン諸国」のガイドブックを手掛けられないかな、との企てです。

執筆しているのは『某歩き方』アメリカ全般ですが、(USA、BOS、DC、LA、西海岸などなど)
バルカン・エリアはまだ『クロアチア編』が刊行されたばかり、
コアなバルカン各国の案内はまだまだ成立してないので、情報収集という名の取材です。

約束の12:00に合わせ、ホステルを出る。

歩いて10分、教えてもらった住所は『スカンデルベグ広場』にほど近く、
言うなればティラナの「丸の内」的な場所なのだろう、辺りにはTV局や政府の建物が軒を連ねていた。

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『Albania Experience』のオフィスへ訪問、ボスとのミーティングでアルバニア情報を教えてもらう。
どうやら『ベラーティ』、『ジロカステラ』(現地語ではこう発音していた)辺りは外せないエリアらしい。

「バルカン・エリアではまだ手配が行き届いてないが、うちは全エリアをカバーしている。
 ホテルも新しくキレイなものしか使っていないので、日本の旅行者には安心してたくさん来てほしい。
 そのためにもアルバニアだけのガイドブックを出して、後押ししてくださいね」

まだまだ日本人観光客は少ないらしく、かなり切実にお願いされてしまった。

実際、ティラナに到着するまでクロアチアを除いたバルカン・エリアで
日本人のツアー・グループを見かけることはなかった。
料金が高い8月のハイ・シーズンということを割り引いても、韓国系、中国系に比べると圧倒的に少ないのだ。
どうでもいいことだが、ここまでの道のり、まだ日本人と言葉を交わしてない。

「ランチに行きませんか? 他のスタッフも一緒ですが」

土曜日は半日でオフィスを閉め、スタッフと食事をしてから帰るのがいつもの流れらしく
「気にせずご一緒に」と誘われた。

オフィスからほど近い場所にあるまぶしいぐらい明るく清楚なピッツェリアに入る。

レストランはその名の通り「ピッツァ」を出す店でもあったが、アルバニア料理もふんだんに並んでおり、
後から持ってきてもらった英語のメニューには知らない地元料理が並んでいた。

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「あの~、アルバニア料理に挑みたいので、オススメを教えてください」

ボスやスタッフにそういうとメニューを指し示し、アレコレと提案してくれた。

「キョフテはご存知? へえ、昨日食べた?
 でもここのは『肉ナシ』キョフテなんですよ、繋ぎにマメを使ってるんです。
 あと外せないのはピラーフかな、ここのは特別オイシイですよ。
 それとレバーはダイジョウブですか? ここのレバーの煮込みはちょっとスパイシー(辛い)でイケます」

「キライなものがないので、なんでも食べられます。ではそれらを注文することにしますね」

納豆が食えない、という説明はここではいらないだろう、
極東の国を出てしまえば「キライなものはナシ」という扱いでいけるはず。
モチロン「ムシ」の類を食べるのは食糧危機に陥ってから、と決めているので
今のところは好んで食べないことにしている。

「どうです? アルバニア料理の味は。こういう料理が日本の人の口に合うのか、心配です」

「日本人は比較的外国料理への興味が強いので、
 ひどく辛いとかひどく脂っこいとかでなければ、楽しく食べますよ。
 実際、トルコ系の料理なんかはすごく人気がありますし、
 アルバニアの料理をツアーに織り込んで問題ないでしょう」

テーブルの上には数枚のピッツァと肉ナシ・キョフテ(写真4)、レバーの煮込み(写真5)などが並び、
少し遅れて炊きあがったばかりのピラーフ(写真1)がやってきた。
ああ、今回は食べ物のハナシと写真ばかりで恐縮デス。

どれもこれも美味しかったが、それにも増して、ニギヤカに語らいながらのランチが楽しかった。
異国の首都で初対面の人たちと楽しく食卓を囲む、なんてのは悪くない。

「空腹は最高の調味料」なんていうが、「テーブルの会話」こそ最高の調味料だ。

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「そうそう、話は変わりますが、彼は最近、ベイビーができたので、もういつもニヤけているんですよ」

あれこれビジネス的な話しをしているとボスはスタッフのひとりをイジリはじめ、
スマホの写真を見せてみろ、とせっついた。
すると彼はスマホの画面上でカワイイ娘の写真を探し出し、見せてくれたが、
こちらに見せることよりも自分が見入っている時間のほうが長いように思えた。

「見えます? 彼の緩んだ顔」

「あはは、シアワセそうですね。ダイジョウブ? 普段、仕事になります?」

「ふふふ、仕事はもちろんちゃんとやってます、ですがもう毎日早く家に帰って娘に会いたくて」

「となると、ここでランチしている場合じゃないですね」

「そんなことはないですよ! せっかく日本の人が来てくれたのに!」

少しばかりヒヤかすとテレて割り増しで笑顔が崩れた、どこの国も子供を持った親は同じなのかもしれない。

「彼がこんななので午後はわたしが案内しましょう、ティラナの見どころをいくつか」

「ありがとうございます。自分で歩くつもりだったので助かります。
 彼をランチ後に自由の身にしてあげないと、恨まれますからね」

「そんなことはないですよ~」

スタッフの面々と握手とハグを交わし、ピッツェリアを後にするとボスのクルマに乗り込んだ。

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「ティラナは見るものは少ないのですが、散歩がてら軽く案内しましょう」

そういうと『スカンデルベグ広場』の南に向かい、広い通りにそのままクルマを止めた。

「ここがパーラメント・ハウス(Parliament House=国会議事堂)、国の機関はこの周辺に集まってますね。
 そしてこれがコミュニスト・バンカー(壕)です」

樹木が覆い繁る公園に丸くて異質なものがあった。

「かつて共産主義時代に使われたトレンチ(塹壕)にあったバンカーですね」

「なんでこんなところにこれが残されているんですか?」

「歴史の汚点を忘れないように、でしょう。まだ各地にも残ってますよ。
 今からすると暗黒の時代でしたから、この国が同じ過ちを繰り返さないようにと」

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少しばかり耳慣れない政治的な英語が増えてきたので瞬時に理解できず、噛み砕くのに時間がかかった。
日本の軍事用語でよく耳にする「トーチカ」はロシア語なので、当然、ここでの英会話には出てこない。
ちなみに塹壕で襟を立て、前を覆えるコートが「トレンチ・コート」であります、閣下。

この国は第二次大戦後、王制を廃し、共産主義政権が成立、
しかし社会主義国家ながら、その後、ソ連と対立し、「無神国家」を宣言、
国内には50万(!)以上のバンカーを建造し武装、今も地方にはそれらが残っているという。
東側諸国の崩壊とともに開放化し、1992年の総選挙でようやく歩き出したばかり、
国としてはまだ20代の青年なのだ。

彼の説明を耳にして、かつて「弾薬庫」と呼ばれたバルカン・エリアの複雑な背景をあらためて思い知った。
現地の人の口から語られる言葉は重みが違う。

人々が午後の寛ぎで憩う公園にはトレンチのほかにも「刑務所のゲート」や
現地から運んできた本物の「ベルリンの壁」などが並立していた。
その奥ではこの週末に式を挙げるのだろう、新婚カップルが写真撮影にいそしんでいる。

差し込む日差しと裏腹に歴史の影がそこにはあった。




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