第七夜 Lost in the Palace @Split [Croatia]
チェックインを済ませると、いつものように荷物を置くだけですぐに街に繰り出した。
幸いスプリットの街は夜が遅いようで、この時間でも旧市街の通りや路地を行き交う人が多い。
食後の散歩を決め込んでいる家族連れや酔ったカップルと擦れ違いながら、
夕食にもありつけていないこちらは気の利いた食堂かテイクアウトでもないかと物色しつつ、
城壁に囲われた『ディオクレティアヌス宮殿』内を無手勝流に歩いた。
路地は雰囲気のある暗さを保っていて、アブナイ感じはしない。
ムードある情景に夕食よりも写真を撮ることに気を奪われてしまい、路地を歩き続けていると
ポコンという感じで、明るく人が多い広場に出た。
そこは宮殿の中心である『Peristil(ペリスティル)』と呼ばれる広場、
集合をかけたかのように大勢の人たちが広場を囲う周りの段に腰かけていた。
なにかイベントでも行われるのかと気を惹かれたが、目的もなくただ夏の夜に浸っているだけのようだ。
夕食後のひと時、部屋に帰るのがもったいなくて、石造りの中庭でのひと時を楽しんでいるのだろう。
特にナニカが行われるわけでもなく、ナニカをするわけでもなく、
仲間同士でおしゃべりをし、子供たちははしゃぎまわり、言葉もいらないカップルは肩を寄せている。
その中に混じってゆったりと古き宮殿での夜を味わうのは悪い気分じゃない。
夏の夜はまだまだ長く、白い石壁や城壁の上には明るい月が彼らを照らしていた。
宿を探し出し、チェックインしたときには時計は21:30を回っていた。
旧市街に入ればすぐに見つかるだろうと高を括って歩いていたが、
結局、40分近く彷徨い、迷ったことになる。
元「宮殿」の旧市街は約200m四方、その広さは「屋敷」ではなくまさに「市街」だ。
その四角く囲われた城壁の西側『ナロドゥニ広場』に続く路地に目指す宿があったのだが、
宿のアドレス、つまり通りの名前だけメモって来たというのが大いなるミステイクだった。
名の知れた大通りからの道順をキチンとメモっておくべきで、
入り組んだ小さな路地の名前を探し出すことにたっぷり苦労をさせられた。
「困ったら聞く」という旅の心情を下に夜通し開いている売店に立ち寄り、通りの名前を告げても、
「ごめんなさい、わたし他所から働きに来ていて、ここには詳しくないの」という店員の答えや、
「夏の間だけ働きに来ているから」とパン屋の職人からのつれない言葉しか引き出せない、
という不運も重なり、我が心情はもろくも崩れ去っていった。
スプリットは街自体が一大バカンス・タウンらしく、
出稼ぎや季節労働など他所から出向いている人が多いらしい。
翌日、街の目前に広がる波止場から次々と出発するクルーズ船に行列する行楽客を見て、
そのことを再認識させられた。
旅行の前に口コミチェック!
英語も通じない地元のオジサンを捕まえて、なんとか道を教えてもらい、
宿の向かい(!)のレストランのギャルソンに建物を指し示され、
市場の裏の入り組んだ路地にあるホステルをなんとか探り当て、今夜の寝床を見つけ出した。
それもこれも短い時間で慌てて予約を入れた自分のミステイク、ツケは自分の足で払うことになるわけだ。
宿はホステルというより、旧市街の建物の中にあるアパートという感じでホームステイのようなスタイル、
4つに分かれた部屋それぞれが男女相部屋のドミトリーとして使われていた。
ここもやはり「新しいから」という理由で目星をつけた宿だ、
ドミトリー1泊165クーナ(≒3300円)、
キャッシュの持ち合わせがなかったので、翌日まで待ってもらうことにした。
あてがわれた部屋は3人部屋、二段ベッドをフランスの女のコペアが使っていて、
ありがたいことにこちらには普通のシングル・ベッドが残されていた。(写真4)
どうも今回はフランス女性の二人組に縁があるようで、なにか発展でもあるのかな。
「こんばんは、よろしく」
英語でそうアイサツすると、ふたりからはぎこちない返事と笑顔が返ってきた。
どうやら英語がダメなようで、ふたりともしゃべりながら苦笑いしている。
「ぼん・そわー、まんまぜー」
「アナタ、フランス語、しゃべれるの?」
インチキフランス語でアイサツすると、笑顔とフランス語の問いかけが返ってきた。
カタカナで記すと「ボン・ソワール・マドマゼル(こんばんは、お嬢さん)」となるが、
日本人に難しすぎるフランス語の発音とやらは音的にはこういったほうが通じやすいのだ。
「のん・ふらんせ(モチロン、しゃべれません)」
「あはは、キレイなアイサツだからしゃべれるのかと思っちゃった。
わたしたち、これからクラブにいくの、だから部屋はゆっくり使って」
肩を露出したナイト・ドレスに着替えた彼女たちはそう言い残し、出かけていった。
有名なバカンス地なのでナイト・ライフも充実しているのかな、いい出会いがありますことを。
安宿ということもあって客層は若く、隣の部屋からはボリューム抑え目のEDMの音が漏れていた。
こちらも負けずに貸し切りになった部屋で音楽でもかけて、ベッドでリラックスしたい状態だった。
なにせ炎天下で行列を作り、観光客を縫うように歩き、
とどめに宮殿近くで彷徨う、といういらないオチまでつけた一日だ。
シャワーを浴びて、そのままベッドに倒れ込んでもよかったが、
まずは夕食を入れないことには疲れが割り増しになりそうで、いつものスタイルを貫き、すぐに外に出た。
夏の夜に溶け込みそうな人たちが集う広場を離れ、ピザやデリカテッセンが並んでいた路地へ戻った。
カラマリ(イカのフライ)と生ハムを買い、店先のテラスに腰かけ、頬張った。
メニューからすると絶好の酒のアテでしかないが、
別の店で買ったホール・ウィート(全粒粉)のパンを齧り、炭酸水のボトルを傾けた。
ヨーロッパだとなぜこうもガス入りミネラルウォーターがウマイのだろう。
カンタンな夕食を済ませ、また夜の宮殿内を眺めて歩く。
時折、路地に若者の嬌声が響く、アルコールがリミットを超えてバカ騒ぎしているのだろうか、
あるいはクラブでは足りずに路上で踊っているのかもしれない。
困ったチャンが現れるのは有名観光地での名産品か。
ブランド・ショップが灯を消した『Marmontova(マルモントヴァ通り)』では、
はしゃぐ子供の手を引いて、家族連れがお散歩、ここでは時間のことを問うのは野暮なようだ。
昼間はクルージング、あるいはビーチのアクティビティ、
そして夜はBARかクラビング、どうやらここは夏の遊びにはもってこいの場所なのだろう。
これまでの街と比べるとここスプリットは客層も若い、夏に人を集める行楽地の典型かもしれない。
音楽が漏れ聞こえてきたので、その方向に進んだ。
どこからでもたどり着くことのできる中庭『Peristil(ペリスティル)』(写真7)で
ギターの弾き語りがはじまっていた。
どうやら中庭で営業するBARの出し物のようで、
店先ではプラスティック・カップのカクテルが次々に売れている。
石造りの宮殿の中庭、心地よい潮風、夏の夜、カクテルの酔い・・・、これ以上なにが必要だろう。
日付は変わったが、歩きをやめてしまうにはもったいない。
【 Sweet Dreams Accommodation 】はこの場所↓ ★こちらにレビューあります
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