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第五夜 Shared Taxi @Zader [Croatia]

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暗くなった頃、タクシーを呼んでもらい、4人で城壁内の旧市街へ向かった。

車窓から道行きを確かめていると宿からバス・ターミナルで15分、
バス・ターミナルから旧市街へは15分という距離感で、歩けないことはないかな、と考えていた。
城壁前でタクシーが停まると代金の40クーナをフランス人が立て替え、
降りてからそれぞれが10クーナを差し出した。
この距離で約200円なら悪くないタクシー・シェアだ。

「じゃあ、また宿で」

そういうとそれぞれが土曜の夜の賑わいに溶け込んでいった。

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「おう、いらっしゃい」

汗を流しながらホステルの門をノックすると
駐車場を兼ねた庭先で談笑していたヒゲの濃い男に招き入れられた。
外だというのにソファーとテーブルが置かれていて、3人の女性がグラスを傾けている。

「チェックインお願いします。なんかジャマしちゃったかな?」

「いや、彼女らもチェックインしたばかりでくつろいでいただけだよ。
 わ、日本人? この宿初の日本のお客さんだよ」

そのセリフ、どこかで言われたな、と思いつつ、「初の日本人」に驚きはなかった。
なにせ「2か月前にオープンしたばかり」という情報だったのでこのホステルに狙いをつけて来たのだ。
ネット予約のリファレンス番号を告げる。

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ホテル予約サイト【ホテルトラベル】


「今、PCが調子悪くて、記録を確認できないわ。だから支払いも後でいいわよ。ベッドはすぐには入れるわ」

「こちらは両替してないから助かるけど。パスポートでも預けておこうか?」

「そうしてくれるとうれしいわ。実は昨日オーストラリア人に逃げられちゃったの」

どうやら手続きをしてくれているのがクロアチア人の奥様、ヒゲの男性はダンナでセルビア人、
若い夫婦でここの経営をはじめたばかりだそうで、まだ宿経営に馴れておらず、
オーストラリア人に宿代を踏み倒されたようだ。
そしてワインを飲んでいたのは今宵タクシーをシェアすることになるフランスの女の子2人組というわけ。

「ベッド、案内するわね。1階は女性用のドミとキッチン、あなたのベッドは2階よ」

彼女に続くとシャワーやロッカーなどの説明をしてくれ、最後にドアとロッカーのカギを渡された。

「門限はないけど、基本、ドアはカギを閉めてね。それと昼はオフだけど夜はエアコンが入るわ」

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案内された2階には真新しい二段ベッドが4つあり、
入口の脇の床にはダブルサイズのマットレスが敷かれている。
壁の片側には大きい個別のロッカーがあり、キャスターバッグも楽に入る。
天井からは大型液晶テレビが下げられていて、Wi-Fiもしっかり強い電波が飛んでいた。
どうやら10人用の男女相部屋らしいが、「ドミトリー」と呼ぶにはあまりにキレイ過ぎて、
自分で引いたクジが大当たりだったことを喜ばずにはいられなかった。

荷物を置き、すぐに下に降りた。
(上の写真が我がユニット・チーム。アメリカ・アラモで買ったリュックタイプの黒いキャスターバッグと、
 カンボジア・シェムリアップで買ったデイパックにカメラバッグとPCを入れ込んである。
 このキャスターバッグを背に負い、デイパックを前に抱えると歩きやすいのだ。

「あなたもワイン飲む?」

「うれしいけどアルコールダメなんだ、酒はニガテで。キッチンでコーヒーもらっていいかな?」

「インスタントしかないけど気軽に飲んで」

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コーヒーを口にしながら、もらった市内地図で近隣の情報を教えてもらう。
どうやらバス・ターミナルの裏手にもっと大きなスーパーがあるようだ。

「アナタ、ドッチから来て、次はドッチに行くの?」

フランス人の女のコに聞かれるが、彼女たちは英語があまり得意じゃないようだ。

「今朝、リュブリャーナを出てきて、ここにいる間にプリトゥヴィツェ湖に足を延ばそうかと思ってるんだ。
 ここを拠点に往復してもいいかなって。だから予約の2泊以上滞在するかも」

「あら、延泊するならうちは歓迎よ。彼女たち、プリトゥヴィツェから来たって」

マダム、と呼ぶには若い女主人がジョーク混じりにそういう。

「湖の滞在はヒドかったわ。雨が降って寒いし、もうサイテイよ」

どうやらザグレブであったあの雨の日、彼女たちはプリトゥヴィツェ湖にいたらしい。

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「そんなにヒドかったの?宿はどうしたの?向こうで取れるかな?」

「わたしたち、テントに泊まったのよ。あの辺はホステルとかないし、ホテル高いし、
 最初からそのつもりでテント持参していたの。
 それがあの雨でしょ、テントの中まで寒くて寝られたもんじゃなくてクルマで寝たわ」

「その時、ザグレブにいて、朝、雨が降ったから湖に行くの止めたんだ」

「あなた、行かなくて正解よ、ツイてるわ。
 雨で湖はすっかり濁っちゃったし、なにしろ寒かったことしか覚えてないわ。
 だからわたしたち、暖かくてキレイなこの海辺でのんびりすることにしたの」

「あら、そうなるとこちらも長めの滞在かしら。うちは大いに歓迎よ」

ワインのせいかもしれないが、女主人の声が明るい。

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「そっか、やぱりあの辺は安宿ないんだね。ちょっと計画練り直さないと。
 となると湖の後、スプリットへ抜けたほうがいいのかもね」

「スプリットならわたしたち行ったから、いい宿教えるわよ。地図持ってる?あ、宿のカードがあったかも」

彼女たちはフランスをクルマで発ち、南からクロアチアを巡っているらしい。

「わ、うれしいな。教えてもらうよ。
 あ、そうだ、クーナ持ってないから、そろそろ両替がてらバス・ターミナルへ行かなきゃ」

「ねえ、アナタ、夜は旧市街へ行くの?」

「買い物して戻ってきて、夕食食べたら行くつもりだけど?」

「タクシーをシェアしない?今、その話しをしていたところなの。
 初乗りの40クーナで行けるみたいだから4人いたらバスより安上がりよ」

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ここから旧市街へは少し距離があり、バスの本数は驚くほど少ないため、タクシーで行くことが多いそうだ。
ただし流しのタクシーはいないので、電話で呼んでもらうか、予約を入れておく形らしい。
2人のフランス人女性はスタッフにそれを教えてもらったそうで、
そこから派生してこちらにシェア話を持ち掛けてきたのだ。
彼女たちはクラブかバーで呑むつもりなので、自分たちのクルマは置いていくようだ。
なにしろすでに彼女たちはこのテラスでワイングラスを傾けているわけだし。

「OK、そのハナシ乗った。で、ココに何時に来ればいい?」

「わたしたちはこれからビーチに泳ぎに行って、帰ってきてシャワーを浴びて・・・だから、9時でどう?」

「ウィ、まどまぜる」

快諾するとすぐに部屋から出てきたマンチェスターから来た男性が加わり、きっちり商談が成立した。




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