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6月8日、旅は2日目。
出かけようと準備をしていたら、激しいスコールが窓を叩きはじめた。
朝から出鼻をくじかれた形となり、仕方なく食堂に下り、コーヒーを飲むことにした。
「あはは、出かけられないね」
昨夜、空港でピックアップしてくれた彼が玄関前でなにか作業している。
こちらに気づき、手を止め、屈託ない声で空を指差した。
「ああ、まいったよ。
まあ、到着のとき、降られなかったからラッキーかな」
パラオにはいわゆる「安宿」というのがなかった。
一人で見知らぬ土地を歩くにはローカル情報を得るため、
旅行者と交流できるゲストハウスやホステルが好ましかったが、それがない。
サーファー向けの「ゲストルーム」がありはしたが、
そいつは一ヶ月単位からの滞在なので話にならず、途方にくれた。
なんとか調べ上げ、$40のモーテルがもっとも安い、という確証を得た。
知らない土地は安宿の相場もわからなくて困る。
経費を節約するため、数軒あるモーテルを選択肢に並べ、
そこから空港送迎が無料という宿にだけ、メールで問い合わせをかけた。
直前の予約にもかかわらず、6月はオフ・シーズンということもあってか、
メールの返信はすぐに飛んできて、
結果、ここ『Lehns Motel』に部屋を確保することができた。
入国を終え、貧相なターンテーブルを通り抜け、到着ロビーに出ると、
ツアーや大きなホテルのピックアップ・スタッフがバナーを持って立っていた。
「レーンズ・モーテルはダレ?」
誰彼かまわず尋ねてみるとそのなかの一人が後方に向かって声をかけてくれる。
空港送迎に来ている面々は毎日ここに集う馴れ親しんだ顔同士なので、
本人を捜し当てるよりも仲間に呼んでもらったほうが早い。
これはシンガポールのランド・オペレーター(現地旅行会社)で覚えたワザだ。
当時、空港に出向く仕事ではなかったが、
「ミーティング」という名で日本からのVIPを出迎える役割があった。
そんなとき、ターミナル出口が数箇所あるチャンギ空港では、
自社のガイドを探し当てるのに他社のガイドに尋ねるのが手っ取り早かった。
だだっ広いチャンギの到着ロビーを走り回るのは合理的とはいえない。
今でもシンガポールに到着すると古い顔馴染みのガイドにバッタリ出くわすことがあり、
「今日はなにしているの?」といわれる。
日本から遊びに来た人間にいうセリフとしてはあきらかに間違っているのだけど。
モーテルのピックアップ・スタッフは頼りない英語でこちらの名前と予約番号を確認すると、
屋外の駐車場を先導して歩いていった。
「雨、降ったんですね」
「さっきまで激しいのが降ってたんだけどね、到着前にピタリと止んだよ」
到着時の幸運は南の島でも健在のようだ。
シャワーで濡れた路面が南の島の蒸し暑さを吸い取ってくれていた。
空港送迎には似つかわしくない4WDのトランクにキャスター・バッグを放り込む。
助手席に乗り込むとき、クルマが日本製のジムニーだったことに気づいた。
パラオの空港は「コロール」と名乗りながら、
メイン・ストリートがあるコロール(Kror)島ではなく、
東隣の島、バベルダオブ(Babeldaob)島にある。
一時間以上離れているにも関わらず、
「東京」と冠する空港があるぐらいだから驚くには値しないか。
空港の周りには店どころか、街灯もなく、
20時過ぎとは思えない暗さの夜道をクルマは走り出していた。
「宿まで30分ぐらいだよ」
ステアリングを切る彼がシャイな感じでボソッとつぶやく。
橋を渡り、西側のニギヤかなコロール島に向かうわけだが、
空港から距離があるため、送迎に$2~30を求める宿が多い。
この宿は「送迎無料」を掲げていたので、一泊分に近いアドバンテージだ。
30分かからず、キッチリ25分で宿に到着した。
部屋を見せてもらうと、スイート(続き部屋)ではないが、
サービス・アパートメントのような簡素なキッチン・スペースがあり、
右手にシャワー・ルーム、左の部屋にダブルベッドが鎮座していた。
古い部屋ではあったが清潔だ。
「希望すれば毎日、部屋の掃除とベッドメイクはするよ」
さっきまで運転手だった彼がエアコンのスイッチを入れながらそう説明する。
ベッドメイクのことはあまり気に留めなかったが、
エアコンがキッチリ効きはじめた上にカンタンなキッチンがあることがうれしかった。
フルーツを買ってきてもいいし、ヌードルを作るのにも重宝するからだ。
「近くにコーヒー・ショップか売店ってある?」
「コーヒーは朝、キッチンで無料でサービスするよ。
店なら今来た道の途中にあったガソリンスタンドか、その並びにあるよ」
「ありがと。あとで行ってみるよ」
5泊分の宿泊代金をUSドルで$200渡し、領収書をもらうと、
いつものように部屋に荷物だけを放り込み、すぐに出かけた。
現地に着いたら飲むか食べるか、なにかをカラダに取り入れたいのだ。
そうじゃないと旅がはじまる気がしない。
雨が降る中、コーヒー片手にスタッフとしゃべりながら到着の夜を思い出していた。
Lehns Motel ↓
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